第718話 請求詐欺で九尾なのじゃ

「大変YO!! シャッチョサン、誘拐されたってTELがあって!! 身代金、ミリオンダラーベイビー用意しろセイ!!」


「落ち着けコヨーテちゃん。ワイならここに居るがな」


「……ダイコンに億の金の価値があるとはこれ如何に」


「……一本でも二百円いかないくらいなのにのう」


「辛辣やで二人とも!!」


 今年はしかも豊作で値崩れしているのに、いくらなんでもぼり過ぎじゃないか。

 いやはや、嫌なご時世である。


 そらともかく。


 今日も今日とて、仕事中。

 またしてもコヨーテちゃんがいきなり会社に突撃してきた。


 しかもメイド服で。

 おそらく、ダイコンの家の家政婦の制服だろう、ゴシックな感じのメイド服でやって来た。そらもう会社も騒然、社長室に人が集まるってものである。


 すぐに追いついたメイド長らしい人が、コヨーテちゃんを捕まえて会社の外へと引きずって行ったが、いやはやえらい迷惑な話であった。


 ドナドナドナーと引きずられていくコヨーテちゃんを見送りながら、俺たちはダイコンを囲む。


「しかしまぁ、誘拐とはまた古めかしい手口の詐欺の電話がかかって来たな」


「まだオレオレ詐欺の方がかかって来そうなもんやっちゅうに。誘拐かァ」


「なんでそっちにひっかかるのじゃって感じがするのじゃ」


 やっぱ治安が悪い所からやって来た子だからかな。

 なんにしても、純真無垢なコヨーテちゃんと騙すとはふてぇ輩だ。


 罪を憎んで人を憎まず。俺たちは、簡単な詐欺に引っかかりそうになったコヨーテちゃんではなく、その詐欺事態を憎むことにした。

 まぁ、それにしても、この平和な日本で誘拐なんてまずないだろうけど。


 そもそも狙うなら社長じゃなくて、その縁者とかだろう。

 そしてそこはほれこのダイコンである。


「まぁ、娘がもし誘拐されたとしたら、自家用ヘリで突撃してコマンドーするのがワイやけれどな」


「おぉ、流石のロリコマンドー」


「言葉に重みがあるけど、娘はいないのじゃぁ。残念」


 ロリコン拗らせた彼にはそういう身内はいないのであった。

 ある意味で、最強の社長である。


 やれやれ、こんな奴を相手に詐欺を働こうとしたやっこさんも頭が悪い。

 もうちょっと、普通の家庭だったならば、交渉する余地もあっただろうに。

 ダイコンのような根無し草では話にならない。


 この世には、いなくなってもいなくならなくても、どうでもいい人間がいる。

 社長だけれど。


「まぁけど、心配されて悪い気はせえへんな」


「絶対に人に頼る前に自分で――金で解決しちゃうのが目に見えるけどな」


「ほんそれなのじゃ」


「いやいや、世の中には金で解決できへんこともあるで」


 例えば、と、俺と加代がダイコンに問う。

 するとダイコン暫く考えて――。


「あれだ、人身事故とか」


「いやいや、それはそれで逆に警察が介入してくるから、余計に金で解決する話になるでしょうよ」


「のじゃのじゃ、まったくもってなのじゃ」


「そうよなぁ。まぁ、実際、オレオレ詐欺で、ワイに該当するような内容って、よっぽどのことでもない限りあらへんわなぁ」


 のじゃわっはっはと笑い飛ばす俺たち。


 無駄ハイスペックダイコンここにある。

 騙せるもんなら騙してみんかいという感じに笑うダイコンの奴は、ちょっとむかっ腹が立った。いつかいたずらで一回電話かけてやろうか、このやろう。


 などと思っていると。


「シャッチョさーん!!」


「またかいな!!」


 トンボ返りしてくるコヨーテちゃん。

 今度はメイド長を引きずっての登場である。


 なんだなんだ、今度はいったい何に騙されたんだと思っていると、一言。


「さっき、銃で人をキ〇したって、TELが!! 逃亡資金をファストレディって!!」


「……ボヘミアン」


「……ラプソディ」


「なんでそんな物騒な詐欺にひっかかるねんなもう!! ここは日本やで!!」

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