第713話 宅配ドローンで九尾なのじゃ
仕事の昼休みにニュースを見たりしていると、やっぱりガジェット系のモノに行き着いてしまう。なんだかんだ言って、エンジニアなのよねワシら。
そんな俺がちょいちょいと最近気にしているのが――宅配ドローンだ。
昨今、宅配業者は人手不足が深刻化。
この手の技術を取り入れていくのはもはや必須と言っても仕方ないだろう。
しかしながら立ち塞がるのはいろいろな法律。
普通に住宅街の空を飛ぶだけでも問題になるドローン。はたしてそんな法律の目をかいくぐって、このシステムは導入することができるのだろうか。
「……まぁ、宅配業務で使うことができたとしても、せいぜい自社倉庫内での荷物運搬レベルが関の山な気がするな」
「おっ、なんか面白そうなもん見てんじゃん。いいよな、宅配ドローン。なんていうかサイバー、未来を生きているぜって感じがして」
「お前はほんと難しいこと考えてない感じで気楽でいいな」
え、なんで俺ディスられてるのという感じの顔をする前野。
この記事を見て、そういうイケるイケる余裕余裕という感想を抱く所が、その原因だよと言ってやりたいところだが、そこは話の本質ではないのでやめておくことにした。
まぁ、法律やらなにやら、難しいことは抜きにするとして。
「電波障害とか起きたらどうするのかね、あるいは宅配途中のバッテリー不良とか、事故とか。普通にこんなもんを空に飛ばすの、怖い気がするんだけれど」
「桜ぁ、そんなこと言ってたら、人類は進化できないぜ。お前、発展にリスクは付き物だろうがよ」
「いやけど実害はまた別だろう」
「いいか桜よ。百年前はな、大気中を電波だって飛んでいなかったんだぜ。それを考えれば、空を鉄の塊が飛ぶことくらいどうってことないだろ」
「鉄の塊はだいぶ前から飛んでないか?」
というか、電磁波と同じカテゴリでドローンを語るなよ。
お前、今じゃそれは、俺たちの生活にとってなくてはならない存在じゃありませんことよ。
電磁波障害についてはまぁ、この業界に携わっている人間として、少なからず眉唾と言い切れない部分もあるけれども、それはそれじゃないか。よっぽど強力なのに常時曝露され続けない限りは、影響は例外的なものなんだからさ――。
って、話がそれた。
ドローンだドローン。ドローンが空を飛ぶ危険性だ。
「そもそもドローンが自立して宅配するっていう所に俺は無理があると思うんだよな。測位とかはまぁGPSを利用してできる気はするけれど、細やかな部分――家の造りとか階層とかは、どうやって処理するんだっていうの」
「あれじゃねぇ、グーグルマッ〇の画像と突き合わせるとか」
「高層マンションの画像なんてある訳ないだろう。なっ、そういうのを考えると、やっぱり人力で操作する必要がある。地球全体を3Dスキャンでもしない限り、どだい無理なんだよドローンでの宅配なんて」
「お前って時々、この業界の人間とは思えないほど、技術に対して淡白だよな」
何を馬鹿な。
現実を見ていると言ってもらいたい。
無責任にできるできるやれるやれると言うだけが俺たちの仕事じゃないっての。できないことはできない。技術的な課題がある。そういう所をちゃんと見据えているからこそ、それでおまんまが食えるんじゃないかよ。
という訳で。
「ドローンによる配達はまだ時期尚早って奴だろう。もうちょっと、人工知能周りの技術が発達してからだと俺は思うね」
「そうかねぇ、もう今すぐにでも始まりそうな気がするけれど」
「それより早く人が飛んで宅配するんじゃねえかな」
「タケコプ〇ー的な。まぁ、確かにそっちの方がありえそうな――」
と言って、前野の顔が固まる。
彼はどうやら俺の肩越しに窓を見ているようだった。
なんだ、何があるのだと思って振り返れば――。
高層ビルは頂上付近。
地上ははるか彼方というオフィスの窓。
そこにドローンならぬキュウビーンが飛んでいた。
手になにやらスマイルロゴマークの入った箱を持って。
九尾コプターフル回転。
なるほど加代さん、今日も尻尾は絶好調。
「のじゃぁ!! 〇マゾンお急ぎ便の宅配に来たのじゃ!! はよ窓を開けてたもれ!!」
「いやいや、開けられるかよフォックス!!」
気圧差で〇イジみたいなことになるっての。
そうね、そういう技術的問題も解決しなくちゃいけないよね。
とかそれ以前に、俺は日本社会全体の九尾に対する扱いの悪さについて、いよいよ本格的に考えなくてはいけないのではと、そんなことを思ったのだった。
こんな高いところまで尻尾で飛んで、ビル風起こるとダメだから、受取りできないとは憐れ加代ちゃん。
こりゃ人が飛んでもドローンが飛んでも、宅配業界の受難は続きそうだな。
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