第704話 お年玉で九尾なのじゃ(2)

「いやー、なんや家は兄弟や従兄弟はおらへんねんけど、やたらと親せきが多いもんでな。そこの子らに会うたびにお年玉渡してたらもうたいへんでたいへんで」


 とは、ダイコンの談である。

 正月も二日目。俺たちはさっそくダイコンホールディングスに出社――ではなく、近くの神社で落ち合って、初もうでと相成っていた。


 そこで思いがけずお年玉の話が出た訳である。


 うむ――。


「それ、親せきを名乗るただのたかりとかそういうんじゃないよね?」


「んなことあらへんがな、ちゃんと家系図を持ってきて、これこれこういう縁の者って毎回説明してくれるねんで。そんなん、信じたらんと可哀そうやろ」


「……うっ!!」


「……のじゃ、ダイコン。お主、全部わかって」


「まぁ、借金の連帯保証人だけはならんだけどな!! お年玉とそれとは話が別ってもんやでしかし!!」


 有名企業の社長は辛いよってもんである。

 俺たちのような庶民には分からない苦労をしているだろうとは思っていたけれど、やはり彼も彼でいろいろと予想外の苦労をしているようだ。


 まぁ、彼が納得しているならそれでいい。


「しかしまぁ、親せきにかわいい女の子が多いと、つい多めにお年玉も色付けてしてまうもんやで」


「そういう所さえなければ普通に美談なのになぁ」


「のじゃぁ」


「児童養護施設に匿名で寄付したろかとかも思うたけど、やっぱり生で渡す快楽には勝てへんわ。まぁ、寄付はクリスマスやら子供の日やらにやってるから、もう耐性できているっちゅうんもあるけれど」


 金持ち自慢かな。

 お前、もう神社に財布ごと投げ込んでいけよと、ちょっとイラっとする。


 するとダイコン、せやせやと言ってコートの胸元に手を突っ込むと、なにやらまさぐりはじめた。


「桜やんと加代ちゃんにもお年玉」


「冗談こきまろ」


「のじゃぁ。お主に貰うお年玉などないのじゃ。むしろ年齢的にわらわがあげる方なのじゃ」


「ちぅのは冗談で。ほれ、なのちゃんとドラコにお年玉をと思ってな。なんやかんやで、ワイそっちの家にお邪魔する時間があらへんさかいに。ここで桜やんたちに預けておこうと思って」


 なるほど。

 それならば安心していただいておこうじゃないか。


 なんといっても、ダイコンも俺たちと一緒に異世界で過ごした仲である。

 血のつながりが怪しい親類縁者より、よっぽど家族と言っていいいだろう。


 そりゃ、お年玉くらい用意して当然。


 そう思って受け取ったのは――茶封筒。

 あきらかに机に立つレベルの札束が中には入っていた。


「奮発したやで!!」


「し過ぎだフォックス!!」


「のじゃぁ!! 一部上場企業の景気良いときのボーナスみたいになってるのじゃ!!」


「夏目さんか一葉さんか野口さんかで迷うたけど、やっぱ夏目さんにしといたわ」


「「初もうでのついでに渡すようなもんじゃねえ!!」」


 ヤバい取引の報酬を受け取っているみたいじゃないか。お前、こんなん、警察に見つかったらマジでなにしてるんだって言われても仕方ない状況だぞ。

 いやほんと。


 ずれているずれている、どこかおかしいとは思っていたダイコンだが、まさかこれほどまでに世間ずれしているとは思わなかった。いや、なのちゃんのことを思ってくれるのはありがたいことだけれど――。


「もうちょっと、彼女にはそれ相応のお年玉をあげてやってくれ」


「のじゃぁ。なのちゃんまだ子供なのじゃ。こんな、大人のお年玉みたいな額もらっても、どうしようもないのじゃ」


「せやろか?」


「「せやろ」なのじゃ」


 いつも親せきの子にはこれくらいあげてるけどなと頭を掻くダイコン。

 笑い話で落ちるところだが、今回ばかりはちょっと実情が生々しすぎて、俺たちは何も言えなくなるのであった。


 ダイコン。


「お前ほんと、もうちょっと金銭感覚しっかりしろよ?」


「なのじゃ?」


「はっはっは、おかしなこと言うな桜やん。誰の会社で働いてるとおもてんねん」


 そうなんですけどね。

 いや、まったくその通りなんですけれどね。


 もうほんと、こいつのこういう所、どうにかしてやれんものかね。

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