第703話 お年玉で九尾なのじゃ(1)
新年あけましておめでとうございます。(三か月おくれ)
いやはや、書き溜めがあるとネタの時差がすごいね。この調子で、一年分くらいの書き溜めが出来たら、時差もなくなるんじゃないでしょうか。その代わり時事ネタは死ぬことになるでしょうが。
何を言っているのだ俺は。
とまぁ、そんな台詞をのたまいつつも正月の朝。
俺と加代さんはのんびりと、こたつに入ってぽやぽやと正月番組を眺めているのだった。いやはや、漫才しか見るものがないってのも正月のめでたい所だね。
「なのー、おにーちゃん、おねーちゃん、あけましてーなのー」
「きゅるくーん」
「おー、なのちゃん、あけましておめでとう」
「おめでとうなのじゃなのちゃん」
眠たそうに眼を擦って居間にやってきたのはなのちゃん。
正月なので、馬子にも衣装ならぬ孫にも衣装。
親父たちに重たそうな着物を着せられたなのちゃんは、ふらふらとよろけるようにこちらに歩いてくると、そそくさとおこたに潜り込んだ。
はふぅという顔をする辺り、彼女もすっかりこっちの世界に馴染んだようだ。
しかしまぁ、せっかくのおべべがしわくちゃだ。嫌がる子供に着せる方が悪いんだけれども、こりゃまたもうどうしようもないね。
ドラコもくるのーとこたつにペットを引き込むなのちゃん。
そんな彼女を前にして、俺はもぞもぞと上着のパーカーについているポケットをまさぐると、そこから例の物を取り出した。
そう、お正月と言えば欠かすことができないアレ――。
「はい、なのちゃん、お年玉だよー」
「なのー? おとしだまー?」
お年玉である。
正月の子供はこれを目当てに生きていると言っても過言ではない、収入源の乏しい子供たちの一年の生命線。ここでどれだけ稼げるかで、この一年をリッチに生きられるかに関わってくる大切なイベント。
そう、お年玉である。(念押し)
とはいえ、異世界人のなのちゃんには、いまひとつピンと来ない。
ポチ袋をきょとんとした顔で受け取る彼女に、俺は思わず微笑んでしまった。
これくらい無垢だと、こっちもやる気が起こるってもんだね。
「なのー? お兄ちゃん、これいったいなんなのー?」
「お年玉って言ってね、年末年始に子供に大人はお小遣いをあげるんだよ」
「……お小遣い? なにもしてないのにー?」
ほんでもってこういう世知辛いコメントまでつけてくれる。
うぅん、異世界育ちってのはなんていうか、ある意味で不憫だよね。
まぁいいからとっておきなさいとなのちゃんにそれを握らせる。
するとなのちゃん、ちょっと当惑しながらも、ありがとーと舌足らずに俺にお礼を言ってくれるのだった。
うむ、このためにお年玉あげている感はあるよね。
そのありがとうだけで、お釣りがくるってもんだよ。
と、そんなことを思っている横で、加代さんが尻尾をふりふりもふもふとまさぐる。なにやらいそいそとした感じで、尻尾を動かした彼女は、そこからなにやら使い古された感じのポチ袋を取り出したのだった。
中身は、明らかに小銭が入っている感じ。
今用意したなというのが丸わかりのお年玉であった。
「のじゃー、なのちゃん、
「なのー。お姉ちゃん、大変なのにそんなの大丈夫なのー。気にしないでなのー」
「いいから子供は黙ってもらっておくのじゃよー」
そう思うならちゃんと用意しておけ加代さん。
あ、完全に忘れていましたわ見たいな顔してよく言えるよフォックス。
実際、ちょっとお財布的に厳しいのだろう。年末年始はそれでなくても出費がかさばるものである。苦々しい顔をしてポチ袋を握らせる加代さんの姿には、文句はありながらも何もいう事はできなかった。
それも分かっているのか、流石のなのちゃん、ありがとうなのーと満面の笑みでポチ袋を受け取る。ほんまもう、これで少し心が救われるというものである。
いやはや、それにしても――。
「なの。お兄ちゃんたちから貰ったお年玉、大事に使わせてもらうなの」
「はいはい」
「のじゃ、間違っても、おじーちゃんやシュラトお兄ちゃんなんかに渡しちゃダメなのじゃよ。今も虎視眈々と、狙っているけど、気をつけるのじゃ」
襖の奥からこちらを見る目が怖い。
怖い、怖いよ、大きな子供たち。
ギブミーチョコレートみたいにギブミーお年玉って目をしてこっちを見るんじゃない。襖から正月の団らんを覗いているいい大人二人に、俺と加代は冷たい視線を投げかけるのだった。
うむ。
この炬燵に入りたいのであれば、なのちゃん様にお年玉という上納金をお納めしなさい。それができぬのならば、炬燵に入る権利はない。
正月とは無情なり。
「のじゃ、桜よ」
「言うな加代さん。お年玉くらい用意するのが、普通の大人だ。用意できなくて気まずくて居間に入れないのなら、奴らも所詮それまでの人間ということ」
辛いけれど、正月なのよね。
新年からなにやってんだかフォックス。
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