第702話 前野の野望~新潟編~

 はーるばる来たぜ新潟。


 そう、俺はなんかしらんが出張で新潟に来ていた。

 新潟三条市は刀の名産地らしいが、残念ながら新潟県新潟市に来ていた。


 同伴しているのは加代さん、社長のダイコン、そして――。


「桜ァ!! 風俗街に行こうぜ!!」


「同居人同伴している出張でそんな野球みたいなノリで風俗に誘うなよ!! 普通にいかんわフォックス!!」


「からの~?」


「いかねえつってんだろ!!」


 お前、呪い殺すぞという目でこちらを見ている三千年九尾の顔が見えないのか。

 人外の者とお付き合いするということはこういうことやぞ。

 いつもえらい人の機嫌を損ねて、お仕事をクビになるオキツネだが、人の首を斬ることは造作もないのじゃなんていう、物騒ネタがいつ繰り広げられるとも限らないんだぞ。


 まぁ、ないと思うが。


 とにかく。


「加代さんが居るのに行くわけないだろう。まったく、なんてことを言うんだ。一旦ホテルに戻って、一眠りして、それからせっかくだし朝から市内をマラソンでもしよう。うん、それが一番健康的だ」


「朝一か……。なるほど、桜、お前ってば本当に、都一の風流人よのう」


「ははっ、なぁに、夜討ち朝駆けと言うてな」


さくりゃァ?」


 はい、嘘です、冗談です。


 一番やらしい店は朝からやってるから、朝から頑張ろうぜとかそういうことは一切考えておりません。おりませんから、体中の穴という穴から、油揚げ汁をまろび出して殺すという感じのきつい視線をいますぐやめてください。


 嫁怖いのじゃー。(Vチューバー感)


 夜もまだまだな八時過ぎ。

 取引先との商談を終えて、出張終わりの道すがら、俺はひゅんと玉を縮めるのだった。ほんと、日本海は寒いところでございます。


 えぇ、じゃぁと、前野。

 じっと視線を向けたのは、俺の隣を歩いている社長――ダイコン。


「ダイコン社長、どうっすか!? おっパブだけでも!!」


「前野やんも好きやなぁ」


 おっパブだけでもってなんだ、おっパブだけでもって。

 まるで軽くいっぱいひっかけていきませんかみたいな感じのノリで言いやがったが、割とおっパブは夜のお店の中でもセクシャル度が高いお店だからな。

 ほんともう、野球感覚といい、お前の中の倫理観はどうなっているんだ。


 そして、そんな軽い誘いに乗るような男な訳ないだろう。


 この男ダイコン――筋に金の入ったロリなんだぞ。

 三次元の女なんかに興味ありませんってもんだ。


 当然、ダイコンは静かにクビを横に振った。


「悪いな前野やん。ワイはな、二次元のおにゃのこにしか興味のない男故に、そういうのはちょっとよっぽどの取引やない限りいかへんねや」


「じゃぁ、もう、個室ビデオ屋〇太郎でいいですよ!! 〇太郎行きましょう!! それで、見た目ちょい若めの女優が出てくるビデオ借りましょう!!」


「ほんま節操ないなぁ、前野やん!? 風俗ならなんでもよすぎやへんか!?」


 前野ェ。

 お前、前野ェ。


 何が悲しくてホテルをとってる出張先で、わざわざ個室ビデオ屋に行かなくちゃならないんだよ、前野ェ。


 そんなことしなくても、エレベータ前にあるカードを買えば、そこそこ見れるだろう、前野ェ。


「いや、有料チャンネルもいいですけれど、やっぱりパッケージを見て選びたいじゃないですか!! VODもいいですけれどバリエーション微妙じゃないですか!!」


「いや、前野くん、確かにそうやけど、そんな大声でいう事やあらへんやろ」


「言うことですよ!! ダイコン社長!! 僕はね、全国津々浦々の風俗街を制覇するという野望を持った男なんですよ!! けどね、残念なことにね、軍資金はいつも乏しい訳ですよ!! 雀の泪でなんとかやっている訳ですよ!!」


「そんでワイの金で風俗行きたいってか!! ホンマフォローのしようのないマジもんのクズ的発想やな!!」


「社長なんでしょう!! 金持っているんでしょう!! だったら行きましょうよ!! 二次元でしかエレクチ〇ンできないって言うなら、それでもかまいませんよ!! なんだったらめちゃくちゃ特殊な風俗だって、僕は構わないんだ!!」


「ワイが構ってまうがな!! いややて、ワイは絶対そういうお店はいかへんて、心の中の嫁に誓ってるんや!!」


「誰ですか、心の嫁って!!」


「マル〇ちゃんやがな!!」


 はわわー、懐かしいメイドロボに捧げちゃってますー。

 しかもまたこれ絶妙なチョイスだなお前、確かにマル〇はロ――。


「琴〇ちゃんの方がロリっぽいでしょ!! なんでそこでマル〇なんですか!!」


「確かに琴〇ちゃんや葵ちゃんも捨てがたいロリみがある!! ロリみがあるけれど、やっぱりあれや――ロリは外見も大切やけど中身も大切なんや!! 精神的なロリみがやっぱりこう大事になってくるんや!!」


「プ〇とプ〇ツーなら!?」


「断然プ〇ツーやで!!」


 業の深い話をするでない。馬鹿者。


 いかん、このアホどもに付き合っていては夜が明ける。

 俺は加代の肩にそっと手を添えると、白熱する青春トークに気炎を上げる前野とダイコンを置き去りにして、夜の新潟の街を進んだ。


「……のじゃぁ。前野の奴もほんと難儀な奴じゃのう」


「ダイコンが先か、前野が先か」


「たぶん、その勝負の決着がつくより先に、お迎えの方が来ちゃうのじゃ」


 はたして前野の野望~全国編~は、始まる前から終わるのであった。


 前野すまんな。

 また今度、加代さんが一緒じゃない出張の時に、頑張ろうや。


しゃくりゃァ?」


「ふふっ、それより加代さん、今日は新潟の夜をたっぷりたのし――へぶっ!!」


 すかさず尻尾ビンタをかまされる俺。


 はい、そうですね、浮気はだめですね。

 ごめんなさいフォックス。

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