第700話 輪っかアドベンチャーで九尾なのじゃ
「ぐぎっ!! ぐぐぐ!! ぬぐぐぐっ!! のじゃぁーっ!!」
「いいぞ加代さん!! あと少し!! あと少しでボスが倒せる!!」
「がんばるなの!! 加代おねーちゃん!!」
「きゅおーん!!」
大画面――というほど大きくもないテレビの前。
一生懸命わっかを曲げる加代さん。
そんな彼女を取り囲んで、応援を送る俺たち。
何をしているかって。
そんなもん見りゃ分かるだろう。
ゲームの応援である。
そう、なんかお気軽に自宅でフィットネスができることで大人気、体動かす系ゲームこと丸い輪っかを曲げることで敵を倒すゲームを俺たちは買って来たのだ。
買って来たのは――親父である。
「いや、ワシもそろそろ体に気を付けなくちゃならない年齢だからなぁ」
とか言っていたが、純粋になのちゃんと遊ぶ切っ掛けが欲しかったのだろう。
ほんと、孫が出来たおっさんってば発想が貧困。
そんなんだから我が家は貧困。
上がらぬエンゲル係数、終わらぬデフレスパイラル。
イェアってもんである。
うるせえ馬鹿、誰がなのちゃんが俺たちの娘だ。
とまぁ、我が家にようやく最新のゲーム機が来たわけなのだが。
「……すまん、加代ちゃん!! ワシの代わりに、敵を、ワシの敵をとってくれ!!」
当の親父はチュートリアルでダウン。
腰を
ほんと、分かりやすいまでにテンプレな爺である。
それで俺と加代さんが急遽親父に代わって、このゲームを攻略していると。
そういう訳なんだな。
うん。
「……頼んだ加代さん!! 俺の!! 俺の腰の敵もとってくれ!!」
「のじゃーっ!! 二人の腰の痛みを思い知るのじゃ、ボスー!!」
「「やれーっ!! 加代さん!! 倒すんだーっ!!」」
『……ヴィクトリー!!』
倒した。
俺と親父という、我が家の男手二人の腰を破壊した、前屈大魔王をついに加代さんが倒した。ばらりばらりとポリゴンが破壊される大魔王。響く断末魔。
表示されるリザルト画面には、消費カロリーが。
5kカロリー。うむ、ナイスな戦いである。
沸き起こる歓喜に立ち上がろうとするも腰に力が入らない。そんな俺たちの前で、加代さんはやり遂げた仕事人の顔で、ふぅと額の汗をぬぐうのだった。
加代さん。
流石は三千年生きた狐。
腰のストレングスが違う。
まぁ、そりゃ俺が一番よく知って――げふんげふん。
「加代さんありがとう、俺たちの敵をとってくれて!!」
「ありがとう、ありがとうな加代ちゃん!! そして、すまんな、こんなダメなお義父さんで!!」
「のじゃぁ、まぁ、力仕事は普段からやっておるでのう」
「お姉ちゃん凄いなの!! かっこいーなの!!」
「きゅるくおーん!!」
のじゃふふふと、いつものように余裕の笑顔を見せる加代さん。
いやー、やっぱり桜家は女性が強い。
お袋という、袋兼大黒柱に支えられてきた桜家だけれども、ここに加代さんが加わることでますます強くなるな。いやはや、この家の未来は明るいぜ――。
そう思った時。
『ふふふっ、前屈大魔王は所詮かりそめの大魔王。ここからが本当の闘い』
「「「なっ、なにぃーっ!!」」」
『腹筋崩壊大魔王顕現!! さぁ、これが本当に最後の戦いだ!!』
まさかの真ボス登場。
RPGのお約束とはいえ、まさかこんな身体を使うゲームでやりますか。
加代さん、はたして彼女の身体は大丈夫なのか。
と思ったら、案の定彼女はその場にひっくり返る。
「……のじゃぁーっ!!」
「「「加代さん!!」ちゃん!!」お姉ちゃん!!」
「……ひ、膝に矢を受けてしまって(意訳:膝がガッタガッタで)、もうこれ以上は戦えないのじゃ!!」
「ちくしょう!! 歴戦のオキツネもここまでか!!」
「我が家の最期の砦が!!」
「おねーちゃん!! 立ち上がってなの!! おねーちゃんがやられたら、世界は暗黒に支配されてしまうなの!!」
「きゅるおーん!!」
立て、立つんだ加代ちゃん。
と、煽ってみても事態は変わらない。
くそっ、あと少しでクリアだというのに、惜しい――そう思ったその時。
後ろの襖がさっと開いた。
「どれどれ、どうやらアタシの出番のようだねぇ」
「お袋!!」
「母上どの!!」
「かーさん!!」
「おばーちゃん!!」
「きゅおくくっ!!」
貸してみなと輪っかを奪うや恐ろしい腕の動きと腹の動きで、腹筋崩壊大魔王に攻撃をしかけるお袋。桜家のラスボスは、それはもういとも簡単に、そして、こんなこと屁でもないという感じに真ボスを倒してみせるのだった。
うぅむ。
やっぱり我が家最強はお袋。
それはまだまだま変わらないみたいだ。
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