第699話 メイド稼業で九尾なのじゃ

「「「いらっしゃいませ。ダイコン館へようこそ」」」


「……本当にメイドが出てきたぞおい」


「……のじゃぁ。本当に日本にメイドが居るのをはじめて見たのじゃ」


 加代さんもびっくりして言葉を失くすその光景。

 ダイコン館こと、ダイコンの実家――普段はマンション暮らし――に訪れた俺と加代は、いきなりの出迎えに面食らった。


 全員が全員、古風ゆかしい英国式メイド服に身を包んでのお出迎えである。

 こんなんいきなり見たら誰だって喉奥にひゅっと息がひっこむってもんだ。


 そう。


 いろいろあってダイコンに預けたコヨーテちゃん。

 しぶしぶという感じであったが、まぁ、ワイにまかしときぃとコヨーテちゃんを預かってくれたダイコン。それ以降、まぁ、彼のことだからなんとかしてくれるだろうと、あまり干渉していなかったのだが――。


 先日の加代さんラジオに寄せられたあのお手紙である。

 不安になって俺たちは、どうなったのとダイコンに尋ね、こうして彼の実家を訪れることになった。


 そう。


「ハーイ!! リーダー、ウェルカムネー!! ようこそコヨーテのお家へ!!」


「貴方のお家ではありませんよ!! コヨーテさん!!」


「……ほんとに居るやんけ」


「……ほんとにコヨーテなのじゃ」


 本当にこれ、ダイコンの家じゃないの。

 その問いに対する答えはこれである。


 A.ダイコンの実家でした。


 申し訳ない顔で奥から出てきたのはダイコン。いやほんと、変な心配かけて申し訳ないという感じの顔であった。


「いや、しゃーなかったねん。ワイの会社で雇うてまうと、やっぱりそれはそれで問題になるやろ。せやったらもっとプライベートで雇うしかあらへんてなってな」


「……プライベートが特殊過ぎる」


「……のじゃ。メイドとして雇うとか、どんだけ金持ってたらできるのじゃ」


「シャッチョさん、バブリーデース」


 別に普通やがなと頭を掻くダイコン。


 うん、全然普通じゃない。


 メイドなんてリアルで雇っている人間、日本にいないっての。

 いや、もしかしたらいるかもしれないけれど、そんなの日本の人口ピラミッドの頂点だけだっての。


 なんだよ、家のメイドとして雇うって。


 金持ちか。

 いや、金持ちだったわ。

 社長だったわ、この腐れダイコン。


「という訳で、まぁ、コヨーテちゃんはうちで面倒見るさかい、桜やんたちはもう心配せんで大丈夫やで。あとはまぁ、なんとかしたるさかいな」


「なんとかシャッチョさんがしてくれるデース」


「タロウさま。気軽に言ってくれますが、この娘を一人前にするのにはその、骨が折れますよ。今更ですけれど、考え直してはいただけませんか」


「逆に考えるんやでえっちゃん。こんな野良犬、世に放ったらワイらの責任問題になってまうがな」


「……ご立派になられて反論の余地のない正論


「お茶をお持ちしました、喰らいやがれゴー・トゥー・ヘル!!」


「「のじゃわちゃーっ!!」」


「「コヨーテちゃん(さん)!! お茶は喰らわせるものではありません!!」」


 世の中には外に出て行って働いちゃいけない人間もいる。

 コヨーテちゃんはなんというかそういう、そういう感じの人だ。


 この一億総労働時代に何を言うのかというものだが仕方ない。


 茶で世界が染められるよりはマシだろう。


「……はぁ。まぁ、しばらくはうちで面倒見るけど。この娘を面倒見てくれる、男気のあるやつ、ウチの会社とかにおらんかなぁ」


 おらへんからお前が責任とって引き取ったんだろうフォックス。

 こんなボインのかわいこちゃん相手に何を言って――。


 いや、すまん。


 ロリだったなお前。


 ほんとすまん、ダイコン。

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