第694話 ところでどうなったで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 国内eスポーツリーグに電撃参戦することを決定したダイコンホールディング。

 関西オーデンズとして、収集されたのはかつての加代ちゃんのゲーム仲間たち。


 ロリと思わせショタだぜKoketish。

 死神を彷彿とさせるすげえ雰囲気のサティ。

 そして、アメリカンダイナマイトな風貌のコヨーテ。


 彼ら四人そろって『Beoulf』。

 かつて、ネット界隈でその名を馳せた名プレイヤーたち。

 はたして現代eスポーツにおいて、その技は通じるのか――。


◇ ◇ ◇ ◇


「という、ノリだったはずなのに、なぜだかいきなり加代ちゃん日常編が今週の頭から始まったのはどうしてなのか」


「どうしてなんやで」


「……のじゃぁ」


 沈黙して視線を逸らす加代さん。


 ここはダイコンホールディング社長室。

 社長机に腰かけるダイコンと、その隣に侍る俺。そして、俺たちを前にパイプ椅子に座らされた加代ちゃんは、気まずそうに視線を床に向けた。


 あきらかに動揺している。

 そしてその動揺の理由を俺たちは知っている。


 ふっと息を吐き出すダイコン。これ以上責めるのはかわいそうかなというよくわからない情け心を垣間見せる。これが社長の器という奴なのだろうか。


 そんな彼に代わって、俺は彼の社長机に置かれているリモコンを手に取ると、ひょいと壁にかけられているテレビの方にそれを向けた。スイッチが入れば、この時のために用意されていた映像が表示された。


 そう――。


『あぁ、駄目です!! 全然だめです、チーム『Beoulf』!! まったく連携が取れていない、どうしたんだネットの歴史に名を刻んだ名チームが、まったくもって動けていない!! やはり時代の流れは残酷ということか、一方的、一方的な虐殺です!!』


『の、のじゃぁーーっ!!』


『はい、今、チーム元『Beoulf』のリーダー『NineTail』が沈んだ!! これにてゲーム終了!! 鳴り物入りでeスポーツ参戦したチーム『関西オーデンズ』、あっけなく初戦敗退ですざまぁ!!』


 そこまで流して、俺はテレビの画面の電源を切った。

 これ以上はもう必要ないでしょうという感じに、無慈悲に電源を落とした。


 リモコンを社長机に戻し、ゲンドウと冬月の姿勢になったダイコンと俺が視線を向けると――。


「のじゃぁ、やっぱり数年のブランクは埋めがたいものがあったのじゃ。どんまいどんまいという奴なのじゃ」


「……やっぱり九尾」


「……安定の加代ちゃんクオリティ。信じたワイが馬鹿やったで」


 そう、見事に加代ちゃん率いる元『Beoulf』こと「関西オーデンズ」はeスポーツの大会で初戦敗退をかましていたのだ。


 それも、圧倒的な連携不足。

 操作ミスの連発の上に、完全に相手の戦略にはまって完敗するという、おおよそ馬鹿みたいに上がった下馬評をことごとく覆しての大敗北であった。


 当然、非難は囂々。

 もはや迂闊に外も歩けないレベルで、加代ちゃんチームは世間で扱われることとなった。とは、流石に言い過ぎ。eスポーツはまだまだマイナースポーツである。


 まぁなんにしても。

 いい恥かいてのじゃーといういつものオチ。


 そんでもって、「関西オーデンズ」は一時休業。

 ちょっと本格的にメンバーを集めなくちゃならんねという感じの課題を残す結果と相成った次第である。


 いやはや。


「まぁねぇ、あれだけ壮大な前振りをかましておいて、結果がこれではそりゃこんなつるし上げにもなりますよ加代ちゃん」


「せやで。加代ちゃんはともかく、他のメンバーにはそれなりに契約金払ってんのに、もうちょっと頑張って欲しかった言う奴やでしかし」


「のじゃ、それは本当に面目ない」


 時代の流れは残酷とは言ったものだが、まぁ、仕方ないよね。

 ことIT関連については恐ろしいレベルで日進月歩しているのだもの。

 それこそ、一年で事情が様変わりするような有様である。

 基礎技術にしてもそうなのに、それを応用したゲームなんかもすさまじい勢いで変化している。


 そりゃ十年前に名を馳せたチームだからって相手になる訳がない。

 残当ってもんですわ。


 まぁ、しゃーないわな、と、ダイコン。

 流石の大企業の社長は器が違う。


 もとより失敗は織り込み済みの試合だったとはいえ、ここまで寛容になれるのはやっぱり人間ができているとしか言いようがなかった。


 なかったが――。


「とはいえ、加代ちゃん、ちょっと幾らなんでも誘い文句はもうちょっと考えて貰わなあかんで。国内の人間ならともかく、海外からとなるとなぁ」


「ほんと、加代さん。それはマジで配慮足りなかったと思うよ」


「のじゃぁ」


 その時、きぃと社長室の扉が開く。

 ひょっこりとそこから顔を出したのは、出てきた褐色娘さん。

 心配そうにリーダーの姿を眺める彼女。二十そこそこの彼女に罪はない、悪いのは三千年生きてきているというのに、気の利かないうちのオキツネさまです。


 ほんと、もう――。


「リーダー、ソーリー。てっきり賞金でホームにリターンできると思っていたデース。まさか、初戦敗退で残念無念ガメオベアとは……」


「コヨーテちゃん。ダメだよこんなダメなオキツネの言葉をほいほいと信じたら」


「せやで。なんとかしたりたい所やけど、もう契約金は払いきってもうたし。それも使い込んでしもうたて。流石にそこまでずぶずぶに金払うんは、他の社員も居る手前できへんわ」


「うーん、大阪、デリシャスなモノ多いです。スシー、テンプラー、スキヤキー」


「「全部大阪関係あらへんがな!!」」


 そう、問題はこの南米から来たアメリカン娘。

 コヨーテちゃんがいろいろあってお家に帰れないことであった。


 ほいほいと、昔のメンバーに声をかけたのはいいけれど、彼らの事情までは把握していたなかった我が家のオキツネ。昔馴染みのコヨーテちゃんは、南米は日本よりも世知辛いのじゃー、結構金に苦労していた。


 なので、契約金はすぐに実家にご送金。

 優勝賞金は無理にしても、入賞賞金でお家に帰る予定だったのだが、これがまさかの予選敗退で痛い目にあってしまったという訳だ。


 成人している女の子である。

 そこはそれ、ちゃんと考えて行動してほしいものだけれど――。


「ソーリー!! ほんと、べりべりーソーリー!!」


「……この調子じゃ、いろいろとお察しだわな」


「……ある意味、加代ちゃんと同じポンコツ感」


「……のじゃ。それについてはわらわも弁明できない」


 米国版加代ちゃんとも言えるコヨーテちゃんにそれを望むのは酷である。

 かくして俺たちはまたしても、厄介な居候を抱えることに――。


「という訳で、悪いけど桜やん、また家で預かって」


「いや、無理無理、無理の無理。既にこちら、ニート三人養ってますから」


「なんやて!?」


「のじゃ、シュラトとなのちゃんはともかく、わらわまでニートくくりとはひどいのじゃ、桜」


「いや違う違う」


 シュラト。

 親父。

 そして加代さんだから。


 なのちゃんは子供なんだからニートなんて言ってやったらかわいそうだろう。

 まったく、そんなことにも気が回らないのだから、この駄女狐は。


 ともかくそんな訳で、桜家の家計は既に火の車、これ以上の余力なし。

 コヨーテちゃんを養うことなど不可能である。


 深々と俺は社長に頭を下げると。


「すんません社長。こればっかりは、社長の力でなんとかしてあげてください」


わらわからも頼むのじゃ。この通り」


「シャッチョサン、お願いよー!! プリーズ、ジョブ、ミー!! アンド、ステイホーム!!」


「なんで!! そうなるねん!!」


 ダイコン。

 ロリでアホで顔がいろいろと出しちゃいけない感じ。

 けれど、頼りなる社長ダイコン。


 悪いが今回はお前に頼らせてもらう。


 だって俺たちは――貧乏なのだから。


 悲しいことにね。


「ノグリスオブリージュ!! ダイコン!!」


「よっ、お大尽!! ダイコン!!」


「シャッチョさん!! ダイコン!!」


「せやから!! これ以上世話やいたら、他の社員に示しが付かへん言うてるやないか!! もーほんまー!! おだててもなんもでーへんやでー!!」


 けどなんやかんや言って出す。

 ダイコンはそういう男なのであった。


 流石、シャッチョサン、器が違うぜ。

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