第689話 飛行機で来たで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 なんかいろいろあってダイコンがeスポーツやるでと乗り気になってしまった。

 しかしながら、「やるか」「やるで」できるなら世の中はそんなに苦労しない。彼の無茶ぶりに応えるべく、我らが加代さんは長らく封印していたFPSプレイヤーとしての自分を解放し、全世界にその復帰を高らかに宣言した。


 かくして伝説のFPSプレイヤーことNineTailの復活を境に、物語は動き出す――。


「あれ、もしかして、ストーリーモノ入った感じこれ?」


「のじゃ、と見せかけて、ネタバレ回避の即興トンチキ話なのじゃ」


 ダイコンホールディングスが要するeスポーツチーム。

 関西オーデンの未来やいかに。


◇ ◇ ◇ ◇


 伊丹空港。

 国内線を主に扱うこの空港で、俺たちは戦士たちがやってくるのを待っていた。

 そう、かつてNineTailと共に、ISDNはじ〇ちゃんからADSL世紀を戦い抜いた、熱い戦士たちを迎えるために。


 スーツ姿でキメたダイコン。

 いかにもギークという感じのパーカー姿の加代さん。

 そして――なんでお前らそんな気合入っているのという感じ。

 いつもの服装の俺。


 俺たちは伊丹空港のエントランスから、やってくる飛行機を眺めつつ彼らの到着を待った。


「……来たのじゃ!!」


「なに!? どれや加代やん!! ていうか、なんで分かるんや加代やん!!」


「そこはあれじゃ。かつて戦場を同じくした、仲間として強い絆で結ばれておるからと言っておこうかのう――」


 あらかじめ到着時刻を聞いておいたからじゃねえ。


 無粋なツッコミをしてやりたかった。

 だが、なんかそれっぽいノリなので黙っておいた。

 なんかそれっぽいノリなので黙っておいた。


 人生とは時に、それっぽいノリが必要な時があるのだ。


 手荷物検査を終えて歩いてくる人影。

 その中に、あきらかに異質な影が紛れ込んでいる。

 それはそう見事なこけしのような女の子。どこでそんな着物売っているんですかという、ピンク色が鮮やかなこけし幼女。


 雰囲気だけでわかる――こいつは加代と同じ感じのアレだ。

 妖怪の類だ。


 そんな俺の直感に狂いはなかったということだろう。彼女は加代の姿を見つけると、とてとてとてとその小さな足を踏み鳴らしてこちらに近づいてきた。

 近づいてくるたび、明らかに後ろで鼻息が荒くなるダイコンにちょっと俺は嫌悪感を覚えた。


「……久しぶりですリーダー!! お元気そうでなにより!!」


「久しぶりなのじゃ、こけてぃ。いや、Koketish!!」


 Koketish。

 かつて、加代が組織していたFPSチーム『Beoulf』の頭脳担当。

 彼の頭からはじき出される緻密かつ大胆な作戦は、時に大物チームたちをも混乱のるつぼに落とし込んだ。


 そのあまりにえげつない作戦内容から、ついた二つ名が鬼こけしである。


 なおこのこけし、普通に男の子である。


 なのに後ろのロリコンは興奮している感じである。


 息が荒い。

 まるで北風のようだ。

 あとなんか臭いもすごい。

 なんかすごい。


 スーツに合わせたお洒落な香水がまったく意味をなさないくらいに、男のフェロモンがむわぁと立ち昇っていた。


 うぅん、勘弁してフォックス。


「……あ、新しい世界を開いちまいそうだぜ、桜やん」


「開かないでフォックス!!」


 お願いだから勘弁してほしい。

 もう既に現時点で結構なグレーゾーンな人物だというのに、新しい世界を開いちまった完全に黒になってしまう。


 アンタ、一応会社の顔なんだから、もうちょっとそういう所自重して。


 そんな俺とダイコンのやり取りはともかく。


「のじゃのじゃ。相変わらず岩手の実家で引きこもっておるのじゃー?」


「えぇ、そこは相変わらず。けど、今は主戦場を変えて、MOBAで戦っています」


「噂は聞いているのじゃ。日本在住のアマチュアプレイヤーながら、海外トッププレイヤーを罠にはめた策士」


「ははは、たまたまですよ」


 ネットゲームの事情は詳しくないので分からんが、とにかく凄い頭脳の持ち主らしい。


 なるほど、こいつは頼りになる。

 てっきりリーダーの加代が陣頭指揮するのかと思っていたが、頭働きは彼任せということだな。


 適材適所。

 どうやら思っていたよりも、加代の古巣チーム『Beoulf』はしっかりと役割分担をしているチームらしかった。これならば、チーム競技としてのeスポーツにも、上手く順応してくれるだろう。


 俺はちょっとばかりほっとした。

 ついでに、背中の変態野郎が、ちょっと落ち着いてくれたのにもほっとした。

 本当、変な世界に目覚めないでくれフォックス。


 などと言っていると、また伊丹空港に飛行機が飛んでくる。


 にぎやかになる手荷物検査のゲート前。

 しかし、とある人物の登場により、場は一気に静まり返った。


 伊丹空港に沈黙とそして緊張が走る。

 現れたのは、高身長にサングラス、白いスーツを着た筋肉室の大男。


 そう、なんかデュークとかいう名前が似合いそうな奴。


「なんやアレ!! リアルゴル〇やないけ!! あんなん許されるんか!!」


「……お前が言うか魚〇ダイコン」


 ゴル〇であった。

 死神という感じの大男であった。


 うん、まんま死神かな。


 彼はじろりとこちらの方に視線を向けると、革靴の底を甲高く響かせて伊丹空港の廊下を歩いてくる。腰に手を当てて待ち構える加代さんの前に、ずいと出た彼は、すかさずサングラスを外した。


 いかつい体に、いかつい雰囲気、いかつい衣装からの――つぶらな瞳。

 まるでギャグマンガのように、なんだか乙女チックな瞳がでてきたかと思うと。


「はわわー、リーダーおひさしぶりですぅー、お元気そうでなによりですぅー」


「のじゃのじゃ。サティも元気そうでなによりなのじゃ」


「えへへ、ほめられてしまいましたー」


 まるで萌えキャラのような口調でしゃべるおっさん。

 しかも声がまるっきりアニメのヒロインみたいなことになっている。

 CV桃井はる〇とか田村ゆか〇とかそんな感じだ。


 どうなっているんだよという俺とダイコンの視線に、加代が振り返って答える。


「のじゃのじゃ。彼はサティ・西村。わらわのチームのスナイパーで、ロシア系のハーフな死神なのじゃ。十三歳まではロシアで暮らしていたのじゃぞ?」


「……ロシアで暮らしていた」


「……ハーフの死神でスナイパー」


「ですデース。お父さんの仕事で日本に来ることになって、それで急いで日本語を覚えたんです。けど、日本語ってとっても難しくって。そんな時に、私を救ってくれたのが――日本のアニメだったんだにょ」


 やめろ。


 にょなんてそんな特定の世代をスナイプするような特大語尾で攻めてくるな。

 お前ほんと、見た目も中身も最高に危なっかしいなおい。


「なるほど、この世界の濃い顔の男キャラクターはオタクということだにゅ」


「お前も合わせてくるなダイコン!!」


「……おぉ、もしかして、貴方がスポンサーのダイコン氏。そして、その口ぶり」


「あぁ、せやで、サティやん。あるいはゴルやん」


 オタクミーツオタク。


 同じ時代を生きた者同士、無言で分かりあう男二人。

 そっと手を取り合おうとするのを――俺は止めた。

 絵面的にやばいのでやめた。


「お前ら、この作品がビジュアル描写めったに出てこない小説だからってフリーダムに動きすぎ!!」


 もうちょっと、自分たちの見た目をを考えてフォックス。

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