第688話 コンバットオキツネで九尾なのじゃ
「上から来るのじゃ気をつけるのじゃ!!」
コンバットオキツネ。
お前、そんな一部の人にしか分からないネタを堂々と言えたなフォックス。
いや割とやっている気がするなフォックス。
このネタ何回目だフォックス。
まぁ、そりゃともかく。
加代さんの副業としてネトゲのアカウント育成代行というのがある。そのおかげかそれとも元からかは分からないが、彼女は結構ゲームのセンスがいい。
なのでその流れで、普通になんかゲームの助っ人とか頼まれたりする。
「ヘッドショット、ヘッドショット、一つ外して、油断したところまたヘッドショットなのじゃ」
まるでスイカでも割るように、敵の頭をパーンしていく加代さん。
その悪鬼羅刹の如きプレイングに、俺はなのちゃんはもとよりシュラトの奴が入ってくるのさえ警戒した。
こんなもん、異世界人に見せるもんじゃねえ。
いやはやしかし――。
「のじゃのじゃー、ダイコンがついにeスポーツの公式スポンサーに立候補するとは思いもよらなかったのじゃー」
「だなぁ。アイツ本当もう、ロリコンということさえ目を瞑れば、本当に有能な社長だよな」
まさかダイコンの奴からスカウトされるとは思わなかった。
某日。
例によってダイコンホールディングスWEB技術開発課。
その月例ミーティングの席で、実はとダイコンの奴が話を切り出した。
「いや、ダイコンプロジェクトは失敗に終わった。今季、ダイコンホールディングスのソシャゲ部門の赤字は免れへん。けどや、逆にこう考えることにした。赤字やからこそやれるところまでやってしまおうと」
今更、ちょっとコケたくらいで痛くも痒くもあらへん。
そんな口ぶりで話を切り出した彼は、いよいよ日本にもその波が押し寄せてくるんじゃないかと長年言われつつ、いまひとつ盛り上がりに欠けるeスポーツ事業への展開を打ち出した。
大手パソコンパーツ小売店や、OSを手掛ける会社、あるいはその会社と蜜月にあるパーツの日本支社なんかが躍起になって宣伝している中で、老舗のリゾート企業が参入というのはちょっとした話題になった。
さらにさらに。
「公式チームも造るやで!! 題して関西オーデンズや!! プロプレイヤーもばしばしスカウトしていくし、次代を担う選手の育成にも力を入れるやで!! 目指すは、世界に通用するトップチームや!!」
のわっはっはと超ノリノリで言うダイコン。
ぶっちゃけ、そのテンションはちょっと怖かった。
そして、いくらなんでもちょっと色々甘く見積もり過ぎじゃありませんかねと、苦言を呈したくなるようなそんなノリだった。
そして、結果として苦言を呈しておけばよかったと、俺は後悔することになる。
「……誰も契約してくれへんのやけれど、どないなってんねんこれ!!」
関西に名高い老舗レジャーホールディングス、ここに完敗する。
IT方面についてはあまりにも無力。
子会社を持たないダイコンホールディングスは、あっさりとその出鼻をくじかれてしまったのだった。
まぁ、そりゃそうだろう。
世界規模で有名な会社と、関西でちょっと名の知られている会社であれば、どう考えても全社の方になびく。
そして、なんといってもeスポーツは個人技ではなくチーム技を駆使するもの。たった一人で世界を覆してやるぜというそういうノリと勢いでやれるモノではない。経験と緻密な戦略がモノを言うインテリジェンスな世界だ。
なので、チームメイトに難があること間違いなし、更に言えばチーム方針も危うげなダイコンのチームに入ろうなどというモノは、そうそう居なかったのである。
という訳で、なんの気なしにダイコンが尋ねたのが運の尽き。
「加代やん、そっち方面に知り合い居らへんのかいな!! いろいろやってる加代やんやったら、きっとそういう知り合いも多いんやろ!! ワイもこうなったら引っ込みがつかへんねん、言い値で雇ったるわいな!!」
「のじゃ、その話、乗ったのじゃ!!」
加代の奴がスカウトされた次第である。
以上、回想終わり。
現在に戻る。
どう言ったらいいのか分からんが、とりあえずすごい勢いで向かってくる敵を制圧する加代さん。効率厨とでも言ってやったらいいのだろうか、いや、そんな言葉では形容できない凄みが、今回の加代さんにはあった。
このオキツネ、いったいなにもの。
『なんて無駄のないエイムなんだ!! 完璧に敵の動きを読み切っている!!』
『キルデスの比率が一人だけ違うゲーム』
『回線? それとも機材の差? マンスキルだけでこんなことできるの?』
『まさか実装されていたというのか――リアルタイムRTA!!』
実況欄につぎつぎ流れてくるコメント。
なに言っているのか分からないが、安心しろ俺もわかららねー。
とにかく、加代のプレイに大熱狂、おっとろしーことになっていた。
そう、現在絶賛加代さんは実況プレイ中。
たった一人のダイコンホールディングスプロデュースチームオーデンのプレイヤーとして、無双をかましていたのだった。
と、ここでゲーム終了を告げるアラートが鳴る。
リザルト共に表示されたのは、圧倒的としか言いようのない、キル数、そして、数の優利を完全に一人で覆して、MVPを総なめにしたオキツネスキンの加代ちゃんが使うキャラクターの姿であった。
いぇいとジャンピングして勝ち誇るその姿に祝福のコメントが飛ぶ。
それを眺めつつ、ふぅと加代さんは額の汗を拭った。
完全にやりきった感じの顔。
満面の笑みがそこにはあった。
「のじゃのじゃ、久しぶりにいい汗掻いたのじゃ」
「加代ちゃん、あんた何者なんだってばよ」
「のじゃふふ。まぁ、一時期この手の世界にどっぷりとハマっておってのう。その名残という奴なのじゃ」
「いやそれは知っているけれど、それでもここまでの戦いぶりはちょっと予想外」
いつになく気合の入ったプレイだった。
ダイコンの会社のチームの広報活動とはいえ、そんな気合を入れることだろうか。というか、今までのプレイでもここまでの無双はしてこなかったじゃないか。
実力を隠していたというのか。
何のために――。
『もしかして、このプレイヤー、NineTailじゃないの?』
『えっ、まさか!? あの伝説のNineTail!?』
『FPSゲー黎明期において猟犬集団と恐れられたチーム【Beoulf】のリーダー、NineTailだって?』
『馬鹿な、もう十年前のプレイヤーだぞ……けどNineTailなら』
『よく見れば、使っていたプレイヤースキンも当時のNineTailだ』
のじゃのじゃうふふと悪い顔でほくそ笑む加代。
なるほど、そういうことか。
この狸ならぬ狐、いずれこんな時が来るのではないかと見越して、わざと実力を隠していやがったんだな。そして、こうしてセンセーショナルな復活劇を見せて、世間に旋風を巻き起こそうという腹積もりだった訳だ。
やられた。
やられたぜ、加代さん。
「のじゃのじゃ、それではここでチームオーデンのエンブレム発表と行こうかの」
そこに表示されたのは、誰もが見たことあるエンブレム。
いや、この業界の人間ならばと付け加えよう。
ITの海に落ち、そこを泳ぎ回った人間ならば誰もが見知ったマーク。
そう――。
「『『『FireF〇x!!』』』」
「のじゃ、間違えたのじゃ。失敬失敬」
あまりにも有名な代替ブラウザのマークを誤表示しつつのこの余裕。どうやら加代さん、いつものクビになる展開は封印しての、本気でのチャレンジとみた。
はたして、チームオーデンの未来やいかに。
つづく!!(エウレ〇っぽく)
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