第670話 テレビを見ながらで九尾なのじゃ

 我が家は比較的作法とかそういうのに緩い家だ。

 食事中に新聞を読んでいようが、テレビを見ていようが、果ては漫画を読んでいようが注意することはない。普通の家だと、食うことに集中しろだのと言われるそうだが、そんなことは絶対にない。


 まぁ、テレビを見ながら食事というのは普通にどこでもやっていそうだが。


 いくら家族と言っても人間である。

 顔を突き合わせれば、ぽんぽんと話題が出てくるものでもない。そこにテレビが一つあるだけで、あれやこれやと話題に困らないのだから本当に助かる。


 そして大人になって気が付いたことがある。

 より正確に言うと、加代だけじゃなく親父お袋と暮らすようになって気づいたことだ。


 いやはや。


「ごはん時のニュース番組。子供の頃は面白みがないと思っていたけれど、なかなかこれがどうして当たり障りがない」


「のじゃぁ、変なバイアスが入ってないし、番組の方向性もないからのう。当たり障りのない話のネタにはもってこいなのじゃ」


 そう、ニュース番組のありがたさである。

 これが結構馬鹿にならないのだ。家族間で取り交わす、ちょっとした雑談のネタとして持ってこいときたものなのである。


 バラエティ番組やクイズ番組。

 アニメにドラマの再放送。


 まぁ、食事時にやっている番組なんてまたぞろあるが、それでもやっぱりニュースが一番ありがてえ。


 何がありがてえって、定期的に話題を切り替えてくれる、ふってくれるのがありがたい。


 ずっと同じ話題について話し続けているのって、意外と辛いのよね。

 そこで天気の話、地域の話、事件とかはまぁちょっとぶっそうにしても、ころころと話す内容が変わってくれると、話すこちらとしても大助かりというもの。


 そら民放各社も軒並み揃えて同じ時間にニュースを流すわけだわと、妙に俺は納得してしまったのだった。


 さて――。


「ほんと、また詐欺かい。最近は物騒だねぇ」


「まぁ、この世の艱難辛苦はなめきったワシらには、そんな簡単に騙されんがね」


「そんなこと言っている奴が騙されるんだよ。気を付けろよ親父」


「……異世界転移還付金とか、そういうのがスマホにかかってきたら引っかかって来てしまうかもしれないなぁ」


「……シュラトさま。スマホ持っていないでしょう」


「なの!! おばーちゃん、今日のお味噌汁はダイコンさんたっぷりで美味しいなの!!」


「きゅるくーん!!」


「……平和なのじゃ」


 こう大所帯になってくると、話題一つですごい盛り上がりを見せる。

 いやはや、狭いアパートで加代と二人で膝を衝き合わせていたのが今では思い返せないくらいだ。


 あれはあれでよかったが。

 これはこれでまたいいものがある。


「おや、明日の天気は雨かい。弱ったねぇ、洗濯どうしよう」


「母さん、ワシとシュラトくんに任せな。コインランドリーで乾かしてくるよ」


「なの!! おじーちゃん!! なのも一緒におでかけするの!!」


「ふふっ、レディの護衛とあっては仕方ないな。男が洗濯などとカッコ悪いことこの上ないが、頼まれてしまってはしかたない」


「働いてない方が格好悪いという発想はないのか、シュラトよ」


「シュラトさま」


「のじゃ。異世界転移者の価値観はそうそう治らないのじゃ」


 けらけらと笑う桜一家。


 まぁ、なんだ。

 なーなー、しかたなしで始めた実家暮らしだが。


「こんな風に楽しいんだから、まぁ、悪くないもんだな」


「のじゃ、住めば都とは言ったもの。けれども、住む人も大切なのじゃ。桜よ、こうして笑って食卓を囲めるのは、ひとえにお主の人徳じゃぞ」


「……人徳と思いたくないメンバーもいくらかいるが、まぁ、そう思っておくよ」


 家族ってのはいいものだな。

 そんなことをほんわかと思いながら、俺はなのちゃん絶賛のおふくろが作った味噌汁を啜るのだった。


 ほんと。

 あったかいもんだ。


 あるいは家族といっしょだからそう感じるのかもしれないが。

 そこの辺りはあまりにも、こうして一緒に誰かというのが久しぶり過ぎて、所帯というのを持つのが意外過ぎて、俺には判別がつかなかった。

 幸せなのは分かるけれど。

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