第669話 ヒロイン力で九尾なのじゃ
「おーう、加代さん買い出し行こうや。そろそろ半額タイムセールの時間だし、今日はあぶりゃーげフルコース買ってもいいぞ」
「のじゃ、行くのじゃ行くのじゃ。ちょっと待ってなのじゃー」
ダイコンの会社に転職してからも割と定時で帰れている俺と加代。
なので、家の買い出しなんかは、親父お袋に変わってときどき俺たちが行ったりしている。
近くにスーパーがあるのでそれほど苦ではないが、流石に定年を過ぎて後は衰えるばかりの両親に家事を任せきりというのもなんだしな。
なんだしな。(世界の外を見るような視線を送りつつ)
そんな俺に付き合って、加代の奴も買い出しに手を貸してくれる。
二人並んで歩いていると道行くご近所さんに、あらあら桜くんてば幸せそうね、妬けちゃうわねと言われたりなんかしちゃったりする。
こればかりはちょっとばかりむず痒いが、実際そういうコミュニケーションも、同棲生活には必要なモノ。
うむ――。
まぁ、二人暮らしの時は普通に行ってたしな。
いまさらそんな恥ずかしがるようなことでも。
「おまたせなのじゃー。お出かけ用のいい服が見つからなくて焦ったのじゃ」
「アウトォーッ!!」
いきなり童貞を殺すようなセーターを着て出てきよった加代さんに俺は叫んだ。
え、殺すような童貞いますっけと疑問に思いつつ叫んだ。
ついでに、その童貞を殺す圧が強い感じの服は、貧乳という基本ステータスだとあまり効果が発揮されないのに、よく着てこれたなという驚きも籠っていた。
そう、驚きだ。
なんでおでかけにそんなお洒落をする必要があるのか。
「お前なぁ、そんな恥ずかしい格好でご近所を歩く気か!! 考えろよ!!」
「……のじゃぁ。
「ヒロインは分かる!! けど、ヒロインの格好というか痴女の格好だから!!」
着替えてきはりなさい。
俺はちょっと語気を強めて加代に言った。
しぶしぶと、加代は奥へと引っ込んでいく。そんな服でお出かけしようとするなんて、羞恥心が死んでいるとしか思えない凶行なのだが、そこんところは加代さんちゃんと理解しているのだろうか。
やれやれ。
まぁ、けど、ヒロインとして頑張ろうというその気概は買うよ。
もうかれこれ一緒に暮らしだして長いけれど、そういうパートナーにときめいてもらおうっていう気持ちを抱き続けられるところ。
素直に彼女の美徳だと思う――。
そうだよな、こんな短い距離でも、デートはデート――。
「ママのお古の服があったのじゃー」
「マンマァー!!」
妲己さんの服はいかん。
あかん、妲己さんのなんかこう洗練された、少年雑誌で中国伝奇小説テーマなのに、SF感溢れる感じのピッチリスーツはいかんいかんいかん。
これこそ漏れなく痴女である。
街中で、ラバースーツ着て歩いている女なんて、漏れなくヤベー格好したヤベー奴である。
退魔忍スーツでもないのよ。
ちょっと、考えてみてくださいよ。
「なんでそんなの持ってるの!! というか、なんでそれ選ぶの!!」
「……ママのセレクションなら、ヒロイン力ばっちりかなと」
「ママはヒロインじゃないでしょ!! どっちかっていうと、悪の組織の女幹部でしょ!!」
「ママのことを悪く言わないでほしいのじゃ!! そんなことないのじゃ!!」
そんなことあるよ。
歴史が証明しているよ。
いや、歴史というより奇書が証明しているよ。
もっと普通なのにして。
そう頼むと、俺は額から出たねばっこい汗を拭った。
はぁーもう、加代さんほんとポンコツ九尾。
もうちょっと、ヒロインとはなんなのか、そういうのを分かった服を着て欲しい。三千歳を超えたオキツネさまなんだよ。もっとこう、落ち着いた格好が――。
「では、この制服などはどうなのじゃ。これなら街を歩いていても大丈夫、あと、桜の趣味的にも大丈夫なのじゃ」
「おっさんとJKなんてリアルじゃ犯罪終臭しかないから!!」
俺の趣味服持って来ないで。
ご近所に年齢とか関係とかバレているのに、さらにヤバめの服持って来ないで。
アリだけれど、嬉しいけれど、加代さん単品なら問題ないけれど。
俺と一緒だと危ないフォックス。
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