第647話 再びスナック桜で九尾なのじゃ

 スナック桜江。

 なんかこう、北海道はすすきのでやってる感じの場末のスナック感。毎回毎回、愉快なサブキャラクターたちとあるあるトークを繰り広げる感じのそんなお店。


「「どないしょう!! 森〇枠が二人おるでしかし!!」」


 しかし、そんなことなどお構いなしにハプニングが発生するのが、でていけアンタは九尾さん。パロディなのにまったくパロディしないこのフリーダムさ。


 はたしてパロディなのか。

 パロディと言う名を借りた、何かもっとこう悪質な何かではないのか。

 そんなことを考えてしまう。


 それはともかく。


 ダイコンと前野が初顔合わせ。


 二人はカウンターに肩を並べると、お互いを指さして叫んだ。

 ヤンジャンを隅の隅まで読んでいないと分からない言葉を叫んだ。


 二人ともちゃんとヤンジャンを最後まで読んでいる今どき三十代であった。流石は俺のツレというものである。


「……おこがましいのじゃ!!」


 と、ここでツッコミを入れるのは我がスナックのチーママ。


 頭に二本のトンガリ――狐耳を持つ女。

 金色――というかキツネ色の髪をした女。

 そして、ぼろっぼろの着古したスーツ姿の女。


 加代ちゃんである。


 おこがましいとは。

 なんぞと思いながらも俺は彼女のすることを見守る。だって、それが主人公の役目だから。俺はとりあえず、何も言わずにチェイサーを混ぜた。


「なにがおこがましいんや加代やん!!」


「キモオタキャラがなんで二人も同じ作品に出てくるんだよ。普通、こういうのは一作品につき一人がおきまりだろう。そういうテンプレートというか、黄金の比率というか、そういうのは大事にしなくちゃいけないじゃん」


「せやで!!」


「そうだろ!!」


「二人とも落ち着くのじゃ。そもそも、二人はキモオタポジションではないのじゃ。主人公の男友達というポジションについては被っているけれど、微妙にそのキャラクター性は被っていないのじゃ」


「なんやて!?」


「どういうことだよ加代ちゃん」


 どういうこともこういうこともないだろう。


 何を漫画の登場人物みたいなことを主張しとるのだお前らは。

 お前らはアレか、漫画の読み過ぎか。自分を漫画の登場人物だと思わないといけない、そういう中二病的な症状を発症した方々か。


 そういうのは二十歳くらいで卒業しておけフォックス。

 三十超えたおっさんの下に、化け狐も、おしかけ女房も、ちょっとおまぬけな同居人もやって来ないんだよ。そんなミラクル起きる訳ないって、現実を直視しろ。


 まったく。いい歳して何をしているんだか。

 全然キモオタポジじゃない。ただただキモイポジションだよ、お前たち。


「のじゃ。前野は基本標準語で喋るのじゃ。あと、割とそういう夜のお店にあしげく通っているから、どっちかって言うと〇間先輩ポジなのじゃ」


「マジで!? 気づかなかったわぁーー!! 俺、キモオタポジションじゃなかったのかァーーッ!! ウェーイ系ポジションだったのかぁーーっ!!」


「なるほど。すると、やはりワイが〇田ポジ!!」


「いや、ダイコンはどちらかというと、ボケつつ冷静なツッコミを入れてくれる名リリーフ。そして、ロリコンという根治不能の病を抱えていながらも、それを御している大人の男なのじゃ。つまり――!!」


「童貞をこじらせていないが、童貞心を抑えているキャラ!!」


「辰〇ポジションなのじゃ!!」


 お前ら、フォヴィドゥン〇川好き過ぎじゃねえ。


 いや、いやいや、なんで流れるように会話を成立させてんだよ。

 スナッ〇バス〇パロだよ。


 お前、どう考えても読者を選ぶ感じの作品のパロディだよ。


 なのに、なんで皆知っている前提で、ここまで気持ち悪く話がかみ合うのよ。

 おかしいでしょ。


 スナッ〇バス〇だよ。


 昔の少年ジャン〇だったら王様はロ〇、最近だったら磯部磯部〇とか、そういう立ち位置の奴じゃん。独特の絵柄でちょっと読む人を選ぶ奴じゃん。


 メイン購買層から少しずらして狙いに来ている奴じゃん。

 絶対に表紙になるのに苦労する部類の漫画じゃん。

 漫画雑誌に一つはある、打ち切り位置にあるのに打ち切られない、そういう特殊な立ち位置にいる漫画じゃん。


 なんでそれを理解してるのよ。


 加代ちゃんも、ダイコンも、前野も。


 よくできたヤンジャン読者だわとか言ったけれど撤回するわ。

 お前ら、もっとちゃんとヤンジャンの看板作品を読めよ。ゴルカ〇とか、かぐ〇とか、銀〇とか、そういうの。

 なんでそっちを見ずに、スナッ〇バス〇読んでるんだよ。


 逆に怖いよ。

 お前らの嗜好が怖いよ。


「ちなみに、本当にキモいオタクなのはあそこでスナックのママ気取りをしている、だんまりむっつりすけべやろーなのじゃ」


「加代さん!!」


「あいつの性癖の拗らせ方は、三千年生きたオキツネであるわらわも、勘弁してもーってなるレベルでえらいことになっているのじゃ。まだ、キモオタの妄想の方が可愛いレベルなのじゃ。異次元レベルで拗らせてるのじゃ」


「勘弁してよもー!!」


 スナック桜江でしょ。

 俺、ママポジションじゃないの。


 俺の名前が付いた店じゃん。

 それに、なんか俺のお仕事話になる流れだったじゃん。

 なのになんでこうなるのフォックス。


「のじゃ!! 男がママになれるわけないのじゃ!! 身の程を弁えるのじゃ!!」


「なれるで!! 男でも心がママなら、ママになれるで!! 加代ちゃん、それは偏見や!! コスプレフォックス男への偏見や!! 人間は、想像と言う名の心の翼を広げれば何にだってなれるんや!!」


 のう、という感じに視線を向ける加代さん。

 そして、それにつられてカウンターから俺を見る前野とダイコン。


 あ、これ、落ちましたわ。

 そして、完全に俺がそうでしたわ――。


「なんやけど、時々一周回ってプレーンなのも燃えるないう日もあるっちゃあるで」


 森〇キモオタは間違いなくワイやで。

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