第648話 テレフォン桜で九尾なのじゃ

「んふー、お兄さん、アタイ欲求不満なの。欲求不満でアタシの中のフーバーダムが大決壊してなんかこうえらいこっちゃえらいこっちゃという感じのあれやその」


「……声がおっさんじゃねーか!! どうなってんだこの電話!!」


 かちゃり。


 ノリのいいツッコミと共に、俺の電話は切られた。

 そう、ブースで待機している俺にかかってきたその電話は切られた。


 いやはや。

 今の世代の人間って――テレクラって分かるんですかね。


「もう完全にテレビ電話とかにその役割を追われつつある文明だけれど、人間というのはやはり性に突き動かされて進化してきただけはあるわな。未だにこうして電話がかかってくるんだから、いやはやこえーもんだわ」


「のじゃのじゃ。姿を変え形を変え、こういうのは残って行くものなのじゃのう」


「将来的にはいったいどういう形態になるんだろうな。みんな、通話料がもったいないから、某通話無料アプリとかでするようになるんだろうか」


「そういう専門の通話無料アプリとかができるんじゃないのじゃ。というか、そういうのが既にあるような」


「ストップ、ステイステイ。加代やん、桜やん、落ち着いて。落ち着いてちょっと状況を整理しよう。ごめん、ワイもちょっとついて行けてない。ここはどこ、なにしてるの、いったいぜんたいこの流れはなに」


 おいおいダイコンしっかりしてくれよ。

 一応、この作品は性的表現ありとセルフレーティングしているけれど、いろんな世代の人間が見てもいいように心がけているでていけあんたは九尾さんなんだぜ。


 お前、そこは、描写からお察しするところだろう。


 まぁ強いて言うならば、電話を使ってなんかこう心を通わせるみたいな、そんな感じのサービスをしている、特殊な風俗店の中。


 そして、その桜をしている俺――桜という所だろうか。


 うん。

 ダイコンみなまで言うな。

 お前の言わんとすることは俺も分かる。

 というか、俺に言わせてくれ。


「なんでだよ!! なんで、男の俺がこの仕事やってんだよ!! そりゃ切るよ!! ガチャリ電話を切るってもんですよ!! 当たり前だわな、この手の電話の先に求めているのは、異性なんだもの!! そんでもって、利用者は圧倒的に男が多いんだからそりゃそうなるわな!!」


「……のじゃ」


「……そこまで分かってて、なんでノリノリで行ったんや桜やん。ちょっと、流石にドン引きやったで、いや、ホンマしかし」


「仕事は全力でやるのが俺の主義だよ!! そこんところは、そこのダメ狐とスタンスは変わらないんだよ!! けど、振られた仕事が悪かったよ!!」


 なんで、俺が、テレクラの中の人をやっているんだ。

 人選がおかしいだろう。


 いや、この場合、仕事の選が悪いと言うべきか。


 なんにしても、こんなんやっていられるか。

 男の仕事じゃないフォックス。

 いや、職業差別とかそういうんじゃない。とにかく、需要がないのにこんなんやっても仕方ないフォックス。


「だぁー、シュラトに仕事のやる気を出させる為に、俺にお鉢が回って来たとはいえ、これちょっとあかん奴だろう。前回のスナックといい、今回といい、お色気担当割り振られ過ぎだろう」


「いや、お色気ではないのじゃ」


「普通に気持ち悪い奴やで桜やん」


 普通に気持ち悪いとか言うな。

 俺も、割と気持ち悪いのを我慢してやっているんだから。


 というか、お前らがやらせたんじゃろうがい。

 怒るぞフォックス。


 とかやっていると、またかかってくる電話。


「どうなってんだよ日本!! もう、こういうサービスはすたれてもいいだろう!! なんでまだこんなに電話がかかってくるんだよ!! 昭和かよ!!」


「のじゃ、のじゃ、だからこそ桜に仕事が回ってきたというか」


「やる人がおらん。人手不足はどこの業界でも深刻やで」


「だぁーもう!! もしもし!! アタイ桜、熟れ熟れの三十代独身エンジニアよ!! 得意分野はモーター制御!! オリエンタルでもなんでも持ってこんかーい!!」


「なに、モーターって!! なに!! 怖い!!」


 やけっぱち。

 叫ぶ俺とキレる電話。


 キレそうなのはこっちだよフォックス。ちくしょう、なんて回だ。

 お仕事小説にしたって、もうちょっとこう仕事は選んでくれよフォックス。


 いや、うん。

 加代がやるよりはいいけれどもさぁ。

 そりゃ、加代さんがやるよりは俺がやる方が俺の精神的にはいいけどさ。


 けど――。


「本当にやらせるかなぁ!! なぁ、お前ら!!」


「……のじゃぁ」


「いったい、桜やんは何と戦っているんや。というか、普通に蹴ればよかったのに、やってやらーよと引き受けた桜やんの問題言う奴やでほんま」


「自業自得ってか!! こんな仕事に沈んじまう、アタイの自業自得と言いたい訳か!! アタイだってねぇ、別にこんな仕事やりたくてやっている訳じゃないのよ!! けどねぇ仕方ないじゃ――」


「のじゃ、そのオネエキャラなら、ワンチャンあるかもしれないのじゃ」


 あってたまるかフォックス。

 わしゃ主人公やっちゅうねん。

 なんでテレフォンクラブのキャストになってるっちゅうねん。異世界転生よりびっくりの展開やわい。ほんま勘弁して欲しいで。

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