第646話 居候を忘れているで九尾なのじゃ

 とまぁ、そんなこんなで。


「どうだシュラト。これでよく分かっただろう」


「のじゃ。ダイコンだって、社長業を離れればただの人。そう簡単に仕事ができるようにはならない。それが世の常というものなのじゃ」


 場所は戻ってダイコンホールディングス社長室。

 もうこの数週間というもの、まるっきり当初の趣旨を忘れて、ダイコン弄りに徹していたような気がするけれど、本来の目的はシュラトに就労意欲を植え付けることだ。


 シュラトよ。

 見たかダイコンの雄姿を。

 ダイコンは、社長業という誰もが羨む職責にありながらも、こんな汚れ芸人みたいなことをやってのけたんだぞ。


 実際、汚れ芸人枠の加代ちゃんみたいなことをやったんだ。


 それをシュラト、お前は評価しないというのか。

 全部お前のために、ダイコンはやってくれたんだぞ。

 シュラトよ、その男気に応えなくて、いったい何が男だというのだ。

 男ならば、バカにされても、上手くいかなくても、ふんばって頑張るべき時があるだろうが。


 ダイコンは頑張る自分の姿を通して、それをお前に伝えたかったんだよ。

 それに応えるのが男ってもんじゃないのか、シュラトよ。そしてお前は、そういう熱い男だったじゃないかよ。シュラトよ。


 目を覚ませよシュラト。

 ダイコンがここまでやってくれたんだから。


 カーペットにうずくまってくっ殺せの体勢になるシュラト。はたして、彼の瞳には、失われたはずの光が――。


「いや、そうは言っても、だいたい五割くらいはうまくいってたよな。ダイコンどの、なかなか仕事できる人じゃないか。やっぱり、そういう人のあれこれを見せられても、ちょっとどうかというか」


「「この期に及んでまだいうか!!」なのじゃ!!」


 ダメだった。

 もう、なんていうか、こっちの世界に来てから、卑屈が体に染みついているのだろう。

 シュラトの奴はしれっと、ダイコンのことを否定した。いや、それは違いますよねと、彼のやってきたことをすんなりと否定してみせた。


 おのれシュラト恐ろしいやつ。


 けれどもなんも言い返せねぇ。


「ダイコン!! お前、ハイスペックなんだよ!! 少しくらいはなんか失敗しろ!!」


「そうなのじゃ、そうなのじゃ!! そんな、なんでもお澄まし顔で解決するなんて、いくらなんでもつまんないのじゃ!! 展開を考えるのじゃ!!」


「えぇ、ワイ、割と毎回ちゃんと落ち着けてた気がするんやけれど」


 気がするではダメだ。

 ちゃんとオチを付けなくては。


 まったく、やっぱりこれだから、社長なんて温い仕事をしている奴は困る。

 仕方ない。


「ここはひとつ、加代さんのクビになる芸をずっとそばで見続けてきた俺が、本当のクビになる芸って奴を見せてやろうじゃないか」


「のじゃ、桜よ!!」


「桜やんまでやるんかい!! しかも、なんや本気みたいやな!!」


「中国三千年を越えて受け継がれるクビになる芸、とくとご覧そうじろ!!」


「……え、なに、この流れでなんかずっと回す感じ」


 回す感じ。

 なんだかちょっと不満げな顔をするシュラトに、俺はドヤ顔で答えた。

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