第645話 超能力で九尾なのじゃ

「……来てますなのじゃ!!」


 何が来ているのか。

 ハンドなパワーか。

 それとも、先日乱入したダイコンのところの爺さんの霊か。

 それよりオキツネなんだから、神通力の方が来ているのではないのか。


 ここは最寄りのスーパーマーケット。

 その屋上、市内わくわくふれあいイベント特設会場。


 その三時の部。

 貴方の街の超能力者さん――という体でやってる、素人マジックショーの舞台であった。


 壇上に上がっているのはもちろん加代さん。


 九尾田天狐といういかにもいろんな方面に迷惑をかけそうな芸名を名乗っておきながら、やっているのがハンドパワー。お前それ、本当に訴えられてもかばえない奴だぞと、俺は観客席から彼女を見ながら冷徹な脳内ツッコミを決めた。


 そう。

 加代さんは町内の素人マジックショーに出ていた。

 いつものように、こういう面白イベントに参加していた。

 よせばいいのにこんなしょーもないことをやっていた。


 トランプを手にするおばあちゃん。

 ステージ前の観客席から、ランダムで選んだ彼女に、加代はトランプを一枚引いてもらっていた。

 今から、彼女の引いたカードを当てるのだという。


 まぁ、よくある奴だ。

 カードの配置を覚えていたり、意図したカードを引かせたり、あとはカードの図柄が実はこっそりと裏から分かるようになっていたり。


 素人でもネタの分かるマジックである。

 問題は、そのネタをどう分からせないか。マジックの本質というのは、基本的に多数ある古典的セオリーを、いかに相手に悟らせないかである。というのは、まぁ、素人考えだが、だいたい的を射ていると思う。


 なんにしても。加代さんにそんな器用なことができるのかと言えば――。


「のじゃぁ、分かったのじゃ。おばあちゃんが引いたのはハートの八番なのじゃ」


「……はてぇ、これは、ハートかのう、ダイヤかのう。近頃、遠くのものも近くのものもよく見えなくてのう」


「のじゃぁ。ハートの八番に間違いないのじゃ。ほら、よく見るのじゃ、おばあちゃん。虫眼鏡なのじゃ」


「……はて、どうじゃろうのう? これはほんにハートなのかのう?」


「ハート!! ハートなのじゃ!!」


 まず、悟らせない以前の問題である。

 単純に驚いてくれそうな人間を選ぶ。そういう所からせめて行く必要があるな。


 まるで奇術師と科学大学の教授が謎を解く推理ドラマの如く、散々な感じでステージを去る加代さん。やっぱり、このオキツネ版貧乳霊能力者に、町内会のマジックショーなど荷が勝ち過ぎたのだ。


 どんまいという感じでその哀愁ただよう背中に視線を送ると、さて、続いての挑戦者はこの方と司会のお姉さんが意気揚々と声を上げた。


「突然やって来た関西の帝王。ワイがなにわのトラン〇マンや。ダイコンホールディングス社長――ダイコンタロウさんでーす!!」


「どうもー、ダイコンタロウです。いや。まぁ、ワイ、こう見えてアミューズメント関連会社の社長やらせていただいてましてね。したら、こういう一発芸みたいなのにも得意と言いますか」


 なんでお前が出てくるんだよ、ダイコン。

 お前別に、町内の人間とかそういうんじゃないだろ、ダイコン。


 あにしれっと、町内の人々のふれあいの場になじんでいるんだよ。

 それでもって、ちょっとあれだ、観客もちょっと沸いているんだよ。よっ、待ってましたって感じになるんだよ。


 桜だな。

 桜を仕込んだんだな。


 ちくしょう、だったら仕込むのに適任の人物がいるだろうがよ。

 なんで頼まないんだよ。金さえ払ってもらえれば、よっ、大統領とでもなんとでもリアクションしてやったよ、この野郎。


 まぁ、そりゃともかく。


「ダイコンに手品なんてできるのか。そんなの聞いたことないんだけれど」


 アミューズメント企業の社長ではあるが、それが手品と関係あるかといわれりゃほとんどない。アミューズメントというより、エンターテイメント、ちょっと畑違いである。

 そして、俺も奴が手品なんてする所を見たことがない。


 異世界でも。

 まして、こちらの世界でも。


 本当に嗜んでいるのか。というより、できるのか。できるとして何をやるのか。

 俄然高まるダイコンの手品への興味。

 そんな中――。


「まぁ、本場異世界仕込みのね、人間輪切り――大切断マジックをお見せしちゃいますよ」


「お見せしちゃいますよじゃねえ!!」


 割と笑えない冗談をダイコンは吐いたのだった。


 金も貰っていないというのに、桜をしてしまったのは名前負け。

 俺のツッコミに意味も分からないくせに、どっと湧き立つ会場。そして、そうツッコんでくれると思っていたよと言いたげな、ダイコンの生温かい視線。


 うまいこと嵌められたなと後悔しながら、俺は頭を押さえたのだった。


 いや、そりゃ、お前、異世界のノリでそんなん言われたら、誰だってツッコむってえの。もうリスポーン特典はないのよ、ダイコン。


 なお、町内会に過ぎた大マジックは見事成功をおさめましたが、気分の悪くなるお年寄りが出たため、ダイコンは失格となりまし。

 当たり前だよフォックス。

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