第625話 絶対に笑ってはいけないクビで九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
「フリーズ!! ドントムーブ!!」
「くっ、まさか脱法アブリャーゲの取引を政府の犬にかぎつけられるとは!!」
「なんなの脱法アブリャーゲって!!」
そんなこんなで、加代ちゃんのあぶない稼業(茶番)は幕を閉じ、安定したクビ芸に繋がるのだった。めでたしめでたし。
そして、本日はその続きのお話。
◇ ◇ ◇ ◇
絶対に笑ってはいけないオキツネ刑務所。
ここには、人間に悪さを働いた化け狐たちが収容されている。
三食あぶりゃーげ。
昼は森の中を駆けてどんぐりやらきのこやらを拾い、夜は五時に檻の中に入れられて寝ることを義務付けられる。
自由を愛する化け狐たちにとって、この世の地獄のような場所である。
今日はそんな所にぶち込まれた加代さんを、ダイコンと共に追ってみよう。
「おっと、朝の八時。収監された狐たちの起床の時間ですね」
「加代やんの眠っている檻に飼育――じゃなくて刑務官がやってきましたよ」
気性の荒い犯罪狐たちである。
彼らを不用意に刺激しないように、刑務官たちは優しい色味の服を着ている。
とても犯罪者を扱っているようには見えない。
まるで飼育員さんのような格好だ。
「ほーらカヨチャン、朝ですよ」
「……こやーん?」
「加代やん、のっそりと起きましたね。飼育――刑務官に甘えるような感じです」
「まぁ、加代の奴は朝が結構弱いからなぁ」
「ごろごろと喉を鳴らして刑務官さんに甘えております。微笑ましい光景ですねぇ」
ご飯を持ってきた女性の刑務官さんに、媚びるようにすり寄る加代。
ごろりごろりとまるで飼い犬のように愛らしいしぐさを見せると、きゅるると鼻を鳴らして刑務官さんを見つめた。
そんな彼女に、暗い視線を刑務官さんは向ける。
それは養豚場の豚を見るような、そんな冷たいものだった。
「まったく、仕事はしないのに腹は減るのね」
「……こやっ!?」
「どれだけ教えても芸は覚えない。ステージに立てば人見知り。きのこもどんぐりも見つけてくる量は少ない。本当に、ダメなオキツネね加代ちゃんてば」
「……こやっ!! こやっ!!」
刑務官さんが残酷な顔をして、手に持っているご飯の盆を上げる。
ふふとサディスティックな笑い声を漏らすと彼女は冷たく唇をなめずった。
ごくり、と、俺とダイコンが生唾を呑む。
とんでもない色気。
刑務官というよりこれは――女王さまだ。
加代さんめ。
なんて羨ましいのだろう。
今ほど狐になりたいと、心の底から思ったことはない。
豚ではなく、俺はいま、強烈に狐になりたい。
そう思った。
「こやっ!! こややっ!!」
「これがどうしても食べたいの加代ちゃん。そうよね、食べたいわよね。動物だもの、お腹は空くわよね」
「こやーん!! こやーん!!」
「いいわよ食べさせてあげる。けれどあまりのんびりしないことね」
流し目を向けた先。
ぶら下がっているのは狐の毛皮。
冬に切ればもっこり暖か気持ちよさそうなそれを前に、加代の顔がさっと青ざめるのが分かった。
分かった。
全ケモ顔でもそれは分かった。
「毛皮になりたくなかったら、せいぜい必死になって働くことね加代ちゃん」
「こや、こややーん!! こやこやーん!!」
「ふふっ、いい子ね加代ちゃん。貴方が
そう言って、持ち上げた盆を加代の前に置いて檻の前を去る刑務官さん。
彼女がいなくなってから、こやーんとまるで兄弟と離れ離れになったモンスターのような渋い顔をして、加代さんは盆の上のドッグフードを貪るのだった。
うーむ。
「……これは、加代さん毛皮になるコース待ったなしですわ」
「……絶対に笑ってはいけないって、こっちの方が笑ったらいかん奴ちゃうんか。加代やん、こんなん卑怯やでしかし」
デデーンと後ろで鳴る効果音。
振り返るとそこには、ハリセンを持った加代さん――人間モードが満面の笑顔で立っていたのだった。
「桜!! ダイコン!! アウトー!!」
「「のじゃぁあぁっ!!」」
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