第624話 おきつね金融道で九尾なのじゃ
「おうおうおう!! お前ら、借りたあぶりゃーげも返せねーとは、それでも狐なのじゃ!! 黄金色のあぶりゃーげは狐の命より重いのじゃよ!!」
ちゃららー。
ちゃららー。(二回目)
白いスーツに、豹柄のYシャツ(狐なのに)。
そして真っ黒サングラス。
長い髪を後ろに流して結った、オキツネヤクザの加代ちゃんが、ボロアパートの扉を蹴破って中に入った。
まるでVシネマのワンシーンのようだ。
まるでVシネマのワンシーンのようだ。(二回目)
こんなん、本当にやったら住居不法侵入と器物損壊で一発逮捕じゃろがい。形から入るにしても昭和が過ぎるよ、加代さん。
というか、なんだよ借りたあぶりゃーげって。
そんなん借りるほどのもんでもないだろ。
スーパーで百円ちょっとじゃろがい、フォックス。
四畳一間に震えているのは狐のおっさんとおばさん。
見るからに絵のタッチがなんか違う感じのオキツネたち。
なんていうか、化ける世界観間違えましたという感じに、思わず俺の顔まで青木先生の作品みたいになってしまった。
「すみません、すみません。今度のお給料が入ったら、必ず返しますから」
「そう言って、いったい何か月延滞しているとおもっているのじゃ!! こちとら法外な延滞料で利ザヤを稼ぐレンタルショップじゃないのじゃ!! 法定金利で決められた上限で利率を設定しているホワイトなブラック金融業なのじゃ!!」
「おねがいします、おねがいします」
ホワイトなブラック金融業って、どういう金融業やねん。
そして、しれっとレンタルショップをディスるな。
確かに延滞料金がえらい額になったりするけれど、それと金融業を比べたらいかんやろう。
どんと彼らの前で足を踏み鳴らす加代さん。
ボロアパートの四畳間の床はよく足音が響く。
たった一度の踏み込みで、ぶるりと震えたアパートの一室。
それはまるでその場にいるキツネ夫婦の感情のようだった。
邪悪な微笑みを見せる加代さん。
「あぶりゃーげを返せないようなら仕方ないのじゃ。お主たちもいい歳した、大人のオキツネなのじゃ」
「……まさか!!」
「腹えない分は体で払ってもらうのじゃ!!」
なんと加代さん、そんな小説のヒロインが言っていいことと悪いことがある。
体で払ってもらうなんて、言うのは悪役の方。ヒロインが言っちゃいけない台詞である。
そして見て欲しい、加代さんのこの邪悪な顔を。
顎先まで尖って――。
「倍プッシュだ!!」
まるで違う漫画の登場人物みたいだ。
金融道はとは違う漫画の登場人物みたいだ。
なんで世界観が混ざるんだ。
フォックス。
「のじゃぁ、とりあえず奥さんには、動物園のオキツネふれあいパークで、子供たちと戯れて貰うとするかのう」
「……そんな!! たくさんの子供たちに身体をもてあそばれて、きゃーきゃー言われるだなんて!!」
「あまりに、残酷!!」
「旦那さんの方には、キツネ専門の料理屋で板さんやってもらうのじゃ」
「くっ、指の代わりに寿司を詰めろという訳か」
「残ったあぶりゃーげはこっそり持って帰っていいのじゃ。なに、どうせ捨てたところで野良狐のえさになるだけ。別にそれくらい構わないのじゃ」
のじゃふふふと悪い顔で笑う加代さん。
くっと耐え忍ぶ顔をする借金狐。
――うん。
「茶番かよ!!」
とんでもねえ茶番以外の何物でもなかった。
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