第604話 異世界覚えていますかで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 なんでダイコンタロウは異世界に転生したのか。

 金持ちっぽい、顔も良い、なんか頭もよさそう。

 そんないろいろな要素が詰まった目の前の魚〇もどきに唖然とする桜たち。


 しかし、どんなに顔がよくっても、お金持ちでも、頭が良くても。

 どうしようもならないものがこの世にはある。


「こっちの世界やと、幼女を眺めただけで事案になってしまうやないか」


 法律。

 あるいは条例。


 そう、YESロリータ、NOタッチ。


 ダイコンタロウはこの世界に間違いなく絶望していた。

 異世界に転移することを望んでいたのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


 酒を交えつつなんで俺たちを呼び出したかをダイコンに聞く。

 と言っても、そこにもう既に俺たちは意味を見出していた。

 そりゃそうだろう。だって、異世界に苦楽を共にした仲間なんだもの。


「いやぁ、桜やんたちが無事や聞いてほっとしたわ。なんや、気が付いたら、ワイは岸辺に打ち上げられとったさかいな。二人はどないなってたんやろって」


「のじゃぁ。わらわたちは、通天〇タワーの展望台で寝転がっていたのじゃ」


「関西版レイアー〇って感じだな」


「異世界帰りの鉄板やないか。ええな、ワイなんてどざえもんやで。ほんまもう、勘弁して欲しいわ。なんなんこの扱いの違いわ」


 わははと談笑する俺とダイコン。


 そう、別に理由なんていらない。

 友達と会うのに理由なんて必要ないのだ。


 なんだかんだと酷い扱いをしたけれど、ダイコンと俺たちは異世界での苦楽を共にした仲間なのである。そんな者たちが顔を合わして酒を飲み交わすことにどんな理由がいるだろうか。帰還してすぐの夜の事である、無事を祝って何が悪いか。


 俺たちは無事に異世界から生還したのだから。


 生ビールに梅酒、それからロックのウィスキー。

 それぞれの好きな酒が入ったグラスを傾けあって、この世界に戻れた喜びに酔う。それくらいのこと、やっても罰は当たらないだろう。


「ほんま、異世界転移なんてするもんやあらへんで。もっと楽にチートな感じで、サクサクと進むかと思うてたけど、全然あかんねやもん。向こうに行っても、やっぱり幼女とは仲良くなれへんし」


「いやまぁ、言うて、ダイコンはモンスターだったしな」


「のじゃ。あのフォルムでは幼女でなくても人間とは仲良くできんのじゃ」


「せやろか。愛嬌があって、ワイはええような気がするんやけどな」


「せやねえよ。あんな卑猥なもんに、いったい誰が好き好んで近づくと思ってるんだ」


「のじゃのじゃ」


 スケベダイコンだぞ。

 鏡を見てモノを言えっていうんだ。

 いや、鏡を見る前に察して欲しい。

 いったいどこに、きゃわわ要素があるというのか。


 どわっはっはと上品な料亭の場に下品な笑いが混みあがる。


 耐えきれない。

 そんな感じの笑い声だった。


「はっはっは、せやなぁ。あれではなぁ。そりゃ、マスコットキャラとしては無理があるわな。こっちの格好よりはまだマシかと思うたけれどな」


「のじゃのじゃ。こっちの方がとっつきやすいのじゃ」


「そうかい。俺は、不気味だと思うがねぇ。中身がこれで、外面がこれっていうのは。あんまりにもちぐはぐってもんじゃないかい」


「そういうなよ桜の。俺だって、別に、好きでこんな格好している訳じゃないんだぜ。ただまぁ、なんていうかさ――着ちまったら似合っちまってさ」


「だったらもっと周りに安心感を与える服装にしとけよ。というか、そんな格好でよく外を歩けるな。そもそもなんの仕事をしているんだよ」


「……まぁ、あれですわ。IT系のベンチャー企業、ハードコミコミでやっている感じで、ブランド力マシマシの会社の経営とだけ言っておく」


 おう。

 ちょっと戸惑うレベルの返事じゃねえか。

 というか、本当にちゃんとした仕事をしてたんだな。仕事をした上での、魚〇さんスタイルだったんだな。


 こいつ、本当に釣りじゃなくてもアレな感じなんだな。


 なんにしても、まぁ、思った以上にダイコンはまともな人生を送っているらしい。これでまぁ、普通に奥さんとか居りゃなんも問題ないんだろうけど。


 なにせ、嘆いて異世界に身を投げるような男だからな。

 それは難しいんだろう。


「けどもう、異世界は勘弁だぜ。あんな思いをするくらいなら、現実世界でセウトな女性を見つける方に俺はかけるよ」


「絵面的にはアウトだけれどな」


「のじゃ。けれども、前向きに自分の生き方を考えるのはいいことなのじゃ。頑張るのじゃ、ダイコン。応援していないけど、応援しているのじゃ」


 わっははのじゃのじゃと笑いが満ちる。

 宴もたけなわ酔いも回った俺たちは、そろそろあの話をすることにした。


 そう、あの異世界から持って帰って来た宿題について。


「で、実は問題があるんだけれどな」


「のじゃぁ。ダイコン。お主の所には、何かなかったのかのう」


 俺と加代は、こちらの世界に戻ってくるときに連れて来てしまった、四人について、同じ異世界帰りのダイコンに相談することにした。

 せっかくなので。

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