第603話 魚〇さんで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 この小説は、おとぼけ九尾がクビになる小説。

 異世界流浪編を終えて日常編に回帰するかと思いきや、そう簡単にしがらみは収束しない。穏やかな日常に戻るには、もうちょっと時間がかかるんじゃ。


 という訳で、異世界から戻って来たのは主人公たちだけではなかった。


 件のトラブルメーカーダイコン野郎もご一緒だい。


 そんな彼からのお誘いとも知らず、謎の招待状を手に関西の大手高級料理店にやってきた桜と加代ちゃんは、現実世界のダイコンと初めて顔を合わすのだった。


「魚〇さまーーーーっ!!」


「ザッパーン!!」


「おぁー、このノリこのノリなのじゃ。やっぱ桜とダイコンなのじゃ。抑えてるギャグのツボが同じ感じなのじゃ」


 単にポプテ〇パロやないですか。

 それはさておき、ダイコンまさかの本編にも登場です。


◇ ◇ ◇ ◇


「どういうことやダイコン。お前、現実世界では女の子に見向きもされへん、ど底辺オタクのキモデブ野郎やあらへんかったんか」


「まぁ、そういう部分も確かにない訳やあらへん。ワイはなんやかんや言うて、心は熱いオタクやさかいな。けど――現実世界ではこういう感じや。異世界のオタが、リアルのウェイ系やと思った?的な」


「いや、ウェイ系ではないだろう」


「ないのじゃ」


 魚〇さんがウェイ系のノリで出て来られたら全ファンが泣くぞ。


 あのキャラのためだけに、漫画を追っている人だっているだろうと思わせるくらいの名キャラクターだというのに。

 あと、普通に格好いいのに。


 しかしまぁ、言い得て妙とまでは思わないけれど、確かにダイコンタロウの言う通りだ。異世界のノリで勝手にこちらでの風貌を想像していたが、まるっきり違っているのは勝手な俺たちの思い込みと言う奴である。


 別に、異世界で手に余るロリコンダイコンモンスターが、現実世界で風来坊なニヒルな男であったとしても何も問題ないだろう。


 あきらかに女に不自由していない感じの、ワイルドな感じでも問題ないだろう。


 うん――。


「ていうか!! お前、控えめに言ってもハンサムな感じの奴やん!! なんでお前、それで異世界転生しようと思うんだよ!!」


「のじゃ!! ハンサムどころか、生きる金にも苦労していない、なんかこう生きる世界が違う感じの匂いがするのじゃ!! ダイコン、お主とは向こうでは盟友であったが、こちらではそうはいかぬぞ!! 金持ちは敵なのじゃ!!」


 なんかこっちの世界に絶望して、向こうの世界に異世界転移したとか言ってたダイコンタロウ。

 しかし、実際に会ってみると、絶望する要素なんて何もなさそう。


 いったい何が問題だというんだ。


 人生の幸せの大半は金で解決する。

 そして、それでも満たせない半分は顔で解決する。

 もうほぼほぼ解決したような人生を約束されているのにダイコン。


 お前はいったいなんで異世界転生なんてしちまったんだ。


 すると、ふっとダイコン、手にしていたグラスを傾けて、近くにあった座卓に座り込む。肘をつき、グラスを持ったまま手の甲に顎を載せると、彼は神戸の街並みを眺めた。

 そして一言。


「こっちの世界やと、幼女を眺めただけで事案になってしまうやないか」


「「あっ、お前、ガチのロリ」なのじゃ」


 重症。


 もはやダイコンタロウにつける薬はない。

 それを確信して俺たちは、彼の異世界転移の理由について、それ以上掘り下げるのをやめた。藪蛇になるのが分かり切っているので、やめた。


 うん。

 けど、異世界でも事案は事案だからな。

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