第602話 釣り〇〇で九尾なのじゃ

 最近タイトルに〇が多いな。


 そんなことを想いながら、やってきましたのは関西高層ビルの屋上。

 ビアガーデンとは違う由緒正しきフレンチレストラン。

 今日釣れた旬の魚が食べ放題というそこを俺たちが訪れたのには訳がある。そう、理由がある。というか、理由もなしにこんな高級店に足を運べるわけがない。


 始まりはそう、一通の手紙。

 そこには、このレストランの招待券と待ち合わせの時刻を記したカード、そして、その右下によく分からないサインが刻まれていたのだった。


 まったく心当たりはない。

 何か、俺たちを勘違いしているのではないか。

 そうは思っても、行かずにその勘違いを変な方向にこじれさすのもまずい。なにより、とてもご招待されねば入れないような高級レストランの食事に、俺たちは魅了されていた。


 いかない手がない。

 たとえそこにどんな人物が待っていたとしても。


 俺と加代はできる限りせいいっぱいのお洒落をして高級レストランに臨んだ。

 どうボーイがドレスコードを注意していこうと、変幻自在に対応できるように、さまざまな準備を施した。俺たちに死角などないはずだった。


 しかし――。


「お待たせしました。VIPルーム渓流の間でございます」


 通された高層ビルの頂上にあるとは思えない和室。

 そこに立っていたのは――ぶっきらぼうな無精ひげにサングラス、キャップを被った釣りバ〇三平の精神的な支柱的キャラクターのような男なのであった。


 男は既に飲んでいるのだろう。

 琥珀色をした液体をグラスの中で揺らしている。


 地方都市の夜景を眺めながら、彼はふっとニヒルに口角を吊り上げた。


「この日本で、唯一真に都市と言っていいのは、神戸と横浜くらいなものだろう。計画された土地区画。景観。システマティックな交通網。人間が作り上げた理想郷。究極の機能美がある――そうは思わないか桜くん」


 いや、そうは思わないかといきなり問われましても。

 まず俺はアンタの正体がいったいなんなのか。そこの所が気になって仕方なくいっぱいいっぱいな感じでございますよ。なに、なんなの、アンタさんは。いったい俺たちとどういうご関係で。


 サングラスを外せば、いささかこの小説には不釣り合いな感じのなんとも男前な顔が出てくる。ぶっきらぼうな言動の中に、優しさが滲み出るような感じのそいつは、ふっと笑ってサングラスをテーブルの上に置くと、俺たちに向かって視線を固定したまま、座椅子から立ち上がった。


「おいおい、一緒に異世界を探検した仲じゃないか。そんな他人行儀はよそうぜ」


「一緒に、異世界探検?」


「おっと、まだわかってなかったのか。やれやれ、やっぱりあれかね、姿かたちが変わると、こういうのってのは分からなくなるものなのかね」


 ドレスコードには引っかからないんだがと、明らかに特例で通して貰った感がすごい無頼漢フォーマルをみせつける謎の男。

 仕方ないかとごちって彼は、目を瞑ると――。


「ワイヤでワイ。んもー、ホンマ桜やんたちいけずやわ。もっとこう、優しく察してくれやなあかんで。ワイはダイコンやから耐えられたけど、にんじんやったら耐えられへんかったって奴やで」


 とまぁ、そこまで聞いて、急速に俺たちは色々な事態を把握した。


 俺たちが無事に異世界から帰還しているのだ。

 もう一人の異世界転移者か、それともい転生者かは知らないが、彼もまた同じようにこちらの世界に戻ってきている可能性は高い。


 その向こうでの発言からてっきりと、ステレオタイプなデブオタを考えていたが――。


「ダイコン!! お前、ダイコンなのか!!」


「ダイコン以外の何物やってんねん。ワイのいんちき関西弁を忘れて貰ったら困るでしかし」


 そのいかにも釣り漫画のライバルっぽい感じの男は、異世界で俺たちに魚のえさにされたりもした大根野郎にしてロリコン野郎。

 ダイコンタロウであった。


「……もしかしてダイコン、お前、ショタも」


「のじゃ!! 桜よ!! 自重するのじゃ!! わらわじゃなくて、この作品自体が干される事態になってしまうであろう!!」

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