第588話 シュラトの目的で九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 カタクリXとか書いていいんですかね。

 割と私の世代では、男なら誰でも持ってる試している、そんなマストアイテムなんですけれども。


「……女性でも楽しめるのがでていけあんたは九尾さんの最大の特徴だったのじゃ。これじゃ、どこぞの色ボケアホアホファンタジー小説と変わりないのじゃ」


「せやかて加代さん。俺らかて、男の子なんやし」


「買いたくて買いたくて切ないからDIYするしかないやないですか。加代さん」


「そんな汚らしいものをDIYとは言わんのじゃ!! たわけ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 黒騎士さん、黒騎士さん。


 お腰に付けたカタクリ粉。


 混ぜて、レンチン、ぬっちょぬっちょ。


 シリコン製品の代用だ。


 そう、代用である。

 シリコン製。あの伸縮自在で伸びたり縮んだりする上に、ひんやりとしているようでいて、人の手の熱を吸い取っていい感じの温かさになるアレ。

 アレの代用品として、カタクリ粉を混ぜてレンチンしたそれは最適だった。

 コストパフォーマンス的にも最適だった。こんにゃくよりも、はるかに一回当たりの単価が安い、そんなアイテムであった。


 俺たちの世代はそんなカタクリ粉で作ったジョークグッズをこう呼ぶ。


 カタクリXと。


「まじかよ!! ついに、我らが主――ホール・オブ・オナこと魔神シリコーン様を復活させる依り代がこれで作ることができるんだな!!」


「あぁ!!」


「やめて!! まったく興味は湧かないけれど、単語を聞いただけでもう、なんというかろくでもないことがめたくそ伝わってくる!!」


「意味深な台詞と見せかけてただの隠語やないかい!! というか、最低な神さまやな!! 自分ら、そんなん信奉しているってマジなんかいな!!」


 言うが早いか、シュラトと赤い騎士が剣を抜いていた。

 リスポーンさせる瞬間すら遅らせるきれいな一刀。腐れダイコンピンク太郎は、自分が斬られたことさえ気づかない様子だった。


 それから、まるで猟奇殺人クリーチャー漫画の演出みたいに、ずるりと身体が上下ですべり落ちると彼は――。


「なにするんや!! こっちは素直な感想述べただけやろ!! ワイが斬っても切っても再生する、便利ダイコンやなかったら、大惨事やで!!」


 また、軽く復活してみせるのだった。

 本当に、命のありがたみがなくて軽い。


 それはともかくとして。

 どうやら俺たちは、知らず知らずのうちに大変なことに関わってしまっていたらしい。


 ほんのちょっぴり。

 親切心で手伝ったカタクリの花探し。


 それがまさか――魔神復活というワードに繋がるなんて。


 いや、普通に考えてもそんなワードに付会する訳がないのだ。

 何故、魔神とカタクリが関係あるのか。

 そもそもその時点で、何かがおかしくなっているのだ。


 おかしくなっているのだけれど。

 それはもう、この世界がおかしいということを、十分に理解している俺には何も言えない話だった。


 そうか。そう話が流れるのか。


「えっ!? ちょっと待って!! それじゃ、俺たち、世界を救うんじゃなくて、破滅させる方向に話を進ませたって訳!?」


「のじゃぁ!? 異世界に来たら、異世界を救うのが転移モノの王道!!」


「それが異世界の敵になるとか、ちょっとテンプレ外しもほどがあるってもんやで!! ちょっと、しっかり考えや!!」


 明らかになる話の真相に青ざめる俺と加代とダイコン。

 そんな俺たちの前で、まるでこちらの言葉など耳に入っていないように、きゃっきゃきゃっきゃとはしゃぐシュラトたち。


 何か重い宿命を背負っているなとは思っていた。

 それがまさか魔神の復活とは、想像もしていなかった。


 目の前の赤い騎士に担がれているのか。

 それとも、彼らが言ったペペロペやゴブリンティウスといった、老練な者たちにそそのかされたのか。そこのところは定かではないが。


「……桜やん。これ、責任問題やで」


「……のじゃ。どうするのじゃ、桜よ。これ、大丈夫な奴なのじゃ」


 大丈夫じゃないやい。

 そう答えるのにも勇気がいる状況。

 はたして、突然に明らかになったおとぼけ黒騎士の目的に、俺たちは言葉を失って沈黙した。


 これはまた、厄介なことになりそうだなフォックス。

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