第587話 出てきたアンタはシュラトさんで九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
やってきました暗黒大陸の魔王城。
あきらかにラスボスの風格漂うその居城に、息を呑む桜と加代さんたち。
人の良い騎士に助けられたと思ったらまさかのラスボス直行展開。
急激な話の流れについて行けない桜くんたち。
そこに加えて――。
「して、その客人というのは――うむ?」
「おぁ?」
「のじゃ?」
黒い鎧がよく似合う、いかにもこちらもラスボス風の男。
長い黒髪を揺らす暗黒騎士シュラトであった。
◇ ◇ ◇ ◇
どうしてこんな所にシュラトが居るのか。
何故、自然に彼が現れるのか。
そして、赤い騎士が言った大将とはどういうことなのか。
なんとなく、この気前のいい赤い騎士が、この大陸において重要なポジションに居る人物なのは察していた。
ゴブリンティウス、ペペロペ。
その名前は聞いたことはない。
けれど、彼が嬉々として語る人物たちの事績からは、なんだか人の身に余るものを感じてはいた。
同時に、シュラトに対して、彼が不世出の傑物であることも感じていた。
どこぞの国の王子。
あるいは騎士隊長。
傭兵部隊の団長。
どのような肩書を持っていても決して驚かないだろう。
そう思っていた――。
しかし。
「のじゃ、大将って、シュラト?」
「おいおい、シュラトやん冗談がいくら何でもキツいんとちゃうか」
この状況で、大将の指す意味がどういうものか。
想像できない訳ではない。
魔王城のような城。
そこに集っている者たちの中で、おそらく最上の呼ばれ方であろう大将。
つまるところ、この赤い騎士はシュラトの部下であり、この城の主と考えても問題ないだろう。
そう。
「シュラト、お前、本当に」
「まて、桜どの。そこから先に関しては、私の口から説明するのが筋であろう。なにせ、貴殿らの身の上に関係ない話ではないからな」
もったいぶった言いぐさ。
そんなのはいいからと、これがRPGだったら、メッセージスキップ機能を使って飛ばしてやりたい気分になる。
しかし、大切な所まで聞き逃してしまいそうだ。
しばし、俺はシュラトの言葉を待った。
その言葉を紡ごうとする彼の姿はどこか、あのすっとぼけた冒険者の感じではない。もはや冒険者ではなく人々を導く先導者の風格がその肩には漂っていた。
シュラト。
お前はいったい何者だというのだ。
「説明が遅くなってしまってすまない。いや、桜どのとはもう会うこともあるまいと思っていたのだが、よもやこんなことになってしまうとは。人生とは数奇な者」
「なんでえ、お前ら知り合いだったのか。だったらさっさと言えよな」
「エドワルド。この方たちは私の恩人なのだ。そして、この暗黒大陸に福音をもたらすとあるアイテムを探し出してくれた、救世主と言ってもいい」
とあるアイテムだと。
そんな、この魑魅魍魎と詐欺モンスターで溢れかえっている、暗黒大陸をまともにするようなものを手に入れた覚えはないのだけれど。
何かの勘違いじゃないかと思いを巡らせてみる。
するとすぐさま頭の中に、難航した彼から受けたクエストの光景が過った。
「……ぅぉぃ」
「……まさかそんな。嘘やと言ってくれ、シュラトやん。いくら何でもそれはちょっと、展開的にまずいんとちゃうか。いやほんとマジで」
まさか、アレが世界を救うアイテムだというのか。
そんな疑念を抱く俺たちの前で、シュラトは腰に結わえた袋を手に取った。そう、その麻袋には見覚えがある。
そいつにたらふくとアレをつめたのを俺は覚えている。
そうアレこと――。
「これぞ、魔神シリコーンさま復活に欠かせぬ伝説のアイテムカタクリの花!! よろこべエドワルド!! ついに我らが神がこの世界に顕現する日が来たのだ!!」
「「シリコーンなのにカタクリって、もうどこから突っ込めばいいのかわからない!!」ぜ!!」
俺とダイコンタロウは叫んだ。
男の性から叫んだ。
叫ばずにいられなかった。
日本三大男の夜のお供。
こんにゃく、カタクリX、シリコーン。
しかし、それらは全て、別々の素材でできていた。
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