第568話 困った時の女神頼みで九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
無事にタナカに頼まれていた藁人形を納品した桜。
異世界へと通じる穴を開けるというタナカに、ならばそれに立ち会わせて欲しいと懇願したのだが――。
「……のじゃ」
「……誰もいませんよやで、桜やん」
言われるままに、翌日タナカの住処に現れた桜は、もぬけの空となった部屋に愕然とするのであった。はたして、タナカはどこに消えたのか。
そして、異世界へ移動できるという話は、どうなってしまったのか。
◇ ◇ ◇ ◇
「魔法使いタナカですか。冒険者ギルドには登録されていませんね。ただ、指名手配リストには載ってます。よく分かりませんが、何か得体の知れない研究をしていて、それが原因で政府に危険視されているみたいです」
「……マジかよ」
「のじゃぁ」
「危険な研究て!! おいおい、ワイらえらいことしてしもうたんちゃうのか、桜やん!!」
タナカの家から返す足で冒険者ギルドへ。
この手のことがあったなら、誰に何を訪ねればいいのか。異世界なので勝手が分からない。
いや、元の世界だったとしても、きっとどうすればいいか途方に暮れただろう。
冒険者ギルドに顔を出したのは本当にひらめきだった。
魔法使いを名乗ったタナカ。
名乗るからには、そういう稼業に手を染めているのかもしれない。納品したのが藁人形なだけに、藁にもすがる思いである。
とにかく、何か情報はないか。
そう思って飛び込めば、出てきたのがこの言葉である。
再び体を操っている糸が、ぷつりと切れたような気分になった。
いや、キレたのはそれだけではなかった。
「……あんの、野郎ぉぉおおおおおおお!!」
「のじゃぁ!? しゃ、しゃくらぁっ!?」
「なんや桜やん!? 超エキサイティングやないか!! やめてや、こんな所で大根を色んな所にシュートするのだけは堪忍やで!!」
するかボケェ!!
お前を叩きのめしたところで、俺のこの身から湧き起こる憤怒の感情はもう抑えきれない。
どうしてくれる。
どうしてくれよう。
どうしてやろう。
ちくしょう、タナカの野郎、ふざけやがって。
異世界に行く方法からして嘘だったのか。
それともその話は本当で、そいつが危険な研究だったのか。
どっちにしろ、許せん。
俺たちを、何も知らない俺たちを、体よく利用しやがって。
「吐き気を催す邪悪、それは――タナカ!!」
「のじゃぁ!! そんな濃い顔で!!」
「桜やん、それアカン奴や!! ほんで、そんな格好つけて言うことちゃう!!」
「なんにしても、俺たちが納入した藁人形で、予想外のことが起きるかも知れないんだ。知らぬ存ぜぬじゃ済まされない――加代、ダイコン!!」
タナカをこのまま放置するのはまずい。
それこそ、また、なんかよく分からない業ポイントとかいうのが、勝手に上がってしまう可能性がある。現時点で、なんか結構生きづらい感じになって困っているのに、これ以上生きづらくなってしまってはたまったものではない。
なんとしてでも、タナカが何かをやらかす前に、それを阻止しなければ。
しかし――。
「他に、タナカについての情報とかは? 何かの組織に属しているとか、どこかにアジトを持っているとか、何かないんですか?」
「いや、そういうことを言われても。というか、彼がこの街に潜伏していたこと自体が初めての情報ですし。まさか貴方たちが知り合いだとも知りませんでしたし」
狼狽えるギルド嬢。
どうやら彼女も、指名手配以上の情報を持ってはいないらしい。
本当に異世界とこの世界を繋ぐ魔法を使うつもりなのか。
それとも、もっとややっこしい災厄を呼び出すのか。
もしかするとこのタナカを止めることが、俺たちに求められている試練なのか。
焦るばかりで方向性はちっとも見えてこない。
どうすればいいのかと頭を抱えたその時。
「ちょっとぉ、冒険者ギルドではしゃがないでくれますぅ。ここは冒険者が依頼を受注するために来る場所なんですから」
「……いま、それどころじゃ」
「もー、仕方のない商人舐めプ勢ですねぇ。こんな雑なイベントもこなすことができないなんて、ちょっと失望してしまいましたよ。まぁ、そんなざまぁな桜くんに、お姉さんあえていっちゃいましょう。またひっかかりましたね、桜くん!!」
振り返ればそこに立っていたのは、赤い髪をした冒険者。
大剣を背中に担いで、やぁ、ドラゴン殺しという風体で現れたのは――この世界に直接的な介入が禁止されている女神。
アネモネであった。
「……なんで、お前がここに?」
「まぁ、なんていうんですか。今回の案件については、私の職権にも絡んでくることですから、ちょっと出しゃばっても問題ないかなって」
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