第548話 異世界トンネルで九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
家に帰ってさっそくタナカのことについて加代に相談した桜。
本当に信頼していいのかと念を押されつつも、今はそれに賭けてみるしかないと見事なギャンブラーぶりを見せて同居狐を説得するのだった。
行動派なのは結構だが、はたしてこのギャンブル吉と出るか、凶と出るか。
◇ ◇ ◇ ◇
「タナカが言うにはな。世界にはそれぞれ澱んだ空気を抜くための穴があるそうでな。世界に一定のストレス値――災害とか戦争とかによる負荷がかかると、その空気を抜くために開くんだと」
「……のじゃぁ。それ、体よく他の世界に負のエネルギーを押し付けてる、ヤバい感じの奴なんじゃないのじゃ?」
「いや、開くこと自体に意味があってな。まぁなんだ、その開いた時のエネルギーによって、負の空気みたいなもの自体は軽減されて、他の異世界に通る時には、たいしたものじゃなくなっているんだと」
それでこの原理を利用して、各世界は一定以上の負荷がかからないように、適切に運用されているのだという。
どこかの世界に負荷がかかれば穴が開く。
ガス抜きのように負のエネルギーが他の異世界に通過する。
それにより、必要以上に世界が緊迫するのを防ぎ、バランスが保たれる。
そういう仕組みなんだと。
タナカは長年の研究の果てにその現象を発見し、そして、それを使うことで異世界間を行き来することができるという仮説を打ち立てた。そして今、その仮説が正しいことを証明するために、ある実験をしようとしている。
その実験のために、なのちゃんの人形が必要なのだ。
「のじゃ、ある実験とは?」
「さっきも言った通りだ。その異世界へと抜けるための穴っていうのは、世界に対して一定のストレス値がかからないと開かない」
「……まさか、大量虐殺などとたわけたことを考えてはおらんだろうな。やめろこのたわけめ。桜よ、やっぱりあのタナカという奴、危ない奴なのじゃ」
いやいや、アンタが言いますか。
傾城の女狐――の娘さん。
あんたのお母さん、もっとひどいことあっちの世界でしてたでしょう。それこそ、タナカが言っているガス抜き現象が発生しそうなひどいこと。
それを棚に上げてなにを言っているやら。
とはまぁ、流石に言い過ぎか。
加代の奴が心優しい奴だというのは俺もよく知っている。
母親の妲己さんは――まぁ、昔は本当にやんちゃだったのかどうかは定かではないけれど、今は普通にいい人だ。
タナカのやろうとしていることに、危機感を覚えるのは彼女らしい。
しかしそこは安心して欲しい。
俺もそんな話を聞いて、タナカの話に乗るほど愚かな男でもない。
「だからこそのなのちゃんの能力だ」
「のじゃ?」
「あの精巧な人形。生きているみたいに動くあみぐるみ。あれを使って、タナカの奴は疑似的な戦争を巻き起こそうとしている訳だよ」
「疑似的な戦争とな」
そう。
タナカの立てた作戦はそれだ。
世界のシステムを欺瞞する。
大量の命なき人形を使って、かりそめの悲劇を作り出し、それにより世界と世界を繋ぐ穴を誤認させて開けてみせる。
彼はずっと、そのための人材と素材を探していたのだ。
そしてなのちゃんという逸材を見つけた。
「つまりだ、タナカはなのちゃんの人形を使って、偽りの戦争ごっこをしようとしてる」
俺は端的に、タナカがやろうとしていることをまとめて加代に話した。
そして、もし、そのタナカの仮説が正しかったなら――。
「穴を通過して、俺たちは向こうの世界に帰ることができる。賭けてみる価値はあると思うんだ、加代」
俺たちは元の世界に戻ることができる。
ようやくこの長い彷徨の旅に終止符を打つことができる。
そう思ったからこそ、俺はタナカの話に乗ることにしたのだ。
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