第547話 「異世界に行くためのたった一つの冴えたやり方で九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 異世界の魔法使いタナカと出会った桜くん。

 彼の目的は、なのちゃんの作る人形を使って異世界と行き来する穴を開くこと。

 その穴を通ればもしかして元の世界に戻ることができるのでは?


「やっと元の世界に帰れるかもしれない」


 そんな安堵を覚える桜であったが――。


「とまぁ、喜んでいる桜くんですけど、はたしてどうかしらね。この世界の神々は、桜くんが思っているほど優しくもないし残酷でもない。人間に対して極めて紳士的よ。ふふっ」


 とうの彼をスカウトした駄女神は何やら意味深なことを言い出す模様。

 さてさてどうなる、今週のでていけあんたは九尾さんでございます。


◇ ◇ ◇ ◇


「という訳で、タナカは悪い奴じゃなかった。なんというか、話せばわかる奴だった」


「のじゃぁ。なんか、いいように騙された感じがするがのう。お主。本当にそれ大丈夫なのじゃ?」


 大丈夫よ大丈夫。

 ちゃんと詳しい話も聞いて来たからさと俺は加代の待つ部屋の中へ入る。

 夕飯の準備を終えてテーブルにご飯を並べる加代たち。なのちゃんの稼いだお金で、どうやら豪勢な夕飯が用意できたらしい。


 とうのなのちゃんは、あんなことが合った手前、意気消沈している感じだが。


 まぁ、全ては誤解だったのだ。

 何も心配することなんてなかったよとなのちゃんに声をかけると、彼女はなんだかほっとした顔をして、こちらに笑顔を返してきた。


 ついでに、彼女の隣で心配そうに様子を見ていた草編みドラゴンもクルルゥンと鳴いた。こいつもなんだかんだで心配していたんだな。

 いやはや本当に悪いことをしてしまった。


「なの。桜おにいちゃん大丈夫だったの?」


「おう、大丈夫だったぜ」


「せやで。まぁ、ワイらもだてに三十年近く生きとらんっちゅうの。なのちゃんに心配されることなんてあらへんあらへん」


「なの。それなら安心なの」


 あ、違った。

 俺の身の安全を心配してくれていたのか。

 ほんと、文句のつけようがないくらいにいい娘だな、なのちゃん。


 心配かけちまったのは申し訳ない。

 しかしながら、俺もこんな結果になるとも思っていなかったのだ。

 そこは許して欲しい。


 なのちゃんの頭を撫でてやる。

 植物らしい、みずみずしい手触り。

 すぐに、なのちゃんはくすぐったそうに顔を歪めた。


 その隣で、自分もという感じに鼻を鳴らすドラコ。

 彼もまた軽く頭を撫でてやると同じような反応をした。


 やれやれ、可愛い奴らめ。


「のじゃ。そんなのんきしていないで、さっさとご飯食べるのじゃ」


「おや、加代さん、やきもち? やきもちなのかな?」


「そういうのではないのじゃ」


 といいつつ、テーブルにご飯を置いてから、すすすと俺の横へ移動する加代。

 分かりやすいなと思いつつ声には出さない。


 撫でてやるのはちょっと失礼なので、肩をこつんと預けるだけにしておいた。

 やれやれ、可愛い奴め。(二回目)


「のじゃ、それで元の世界に戻るのによい情報が得られたというのは本当なのかえ?」


「本当だよ。といっても、アイツが与太を言っている可能性はあるけどな。ただ、少なくともかけてみる価値はあるんじゃないかと、俺はそう思った」


 どうせこのままうだうだやっていても仕方ないのだ。

 だったら、タナカの求める異世界とを繋ぐ穴とやらを、開く手伝いをした方がいいに決まっている。


 やってみなけりゃ、何も始まりはしない。

 今は、この方法にかけてみるほかないのだ。


「のじゃぁ、まぁ、お主がやるというのなら、わらわは止めはせんのじゃ」


「そう言ってくれると思っていたよ加代」


 絶対に、二人で、元の世界に戻ろう。


 いつの間にか絡めた手に力が籠っていた。

 加代の気持ちを受け止めて俺は――タナカから聞いて来た異世界との行き来についての話を語り始めた。


 そう、元の世界に戻るためのたった一つの冴えたやり方を。

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