第534話 コント狐女で九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 何故か始まる漫才大会。

 受け入れられる大会内容の変更。

 そして、突きつけられる、九番バッターという絶妙な出番。


 ほぼほぼ笑いの質が見えた所で、はたして桜はその牙城を崩して、見事優勝を果たすことができるだろうか。

 そして、マッスルグレート冒険者に雪辱を晴らすことができるか。


 そもそも、筋肉芸だなんて、ニッチなネタを向こうはやろうとしているが、大丈夫か。心配的な意味で。


 とまぁ、そんなやりとりを交えつつ。

 異世界漫才頂上決戦の幕が上がるのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「……ショートコント。狐娘なのじゃ」


「えぇ、それでは、次の面接の方」


「はいなのじゃ!! お世話になります、なのじゃ!!」


「おや、元気がいいね。けどね、うちは子役タレント事務所のオーディションじゃないんだ。ただのスーパーマーケットの店員さんの面接だからね」


「のじゃ、分かっておるのじゃ」


「あと何、その、のじゃって語尾。今どきいないよね、そんな変な喋り方する人。キャラ作っているにしても痛々しいよね。もうちょっと社会人らしい言葉遣いをまず身に着けようや」


「のじゃぁ。けど、これは加代さんのアイディンティティなのじゃ。やめろと言われてやめれたら苦労しないのじゃ」


「いや、そういうのいいからね。というか、そういう色物店員とか欲しくないから。ウチが欲しいのは、体よくこっちの都合で働いてくれるバイトなの。分かるかい」


「都合よくなかったら平日の昼間っからアルバイトの面接受けに来てないのじゃ」


「言うねぇ。その切り返し、なかなか才能あるよ。うん、スーパーのバイトには向いてない切り返しだけれどね。はいお客様、すみませんくらい言うとけ」


「のじゃぁ……」


「まぁ、語尾はいいよ。えっと、加代さん。大学生ね。ふぅん、フリーターとかじゃないんだ。苦学生って感じだね。どこから来たの」


「カンボジアなのじゃ」


「ちょっとまって、その語尾って日本語勉強のなまりなの!? なまるにしても少し独特じゃない? どういう講師に習えば、そんな風に変な訛りになるっていうのさ!!」


「のじゃぁ、独学なのじゃ。あと、出身は向こうだけれど、こっちで住んでいる年月の方が長いのじゃ。そりゃ日本語も上手くなるのじゃ」


「上手くなるってねぇ。そんな、けど、語尾がのじゃってるじゃないのよ。まぁいいや、語尾については目を瞑るとしよう」


「のじゃのじゃ」


「それで、志望動機は?」


「のじゃ!! 廃棄されるお弁当!!」


「はい、駄目。そういうのね、ちゃんとこっちも管理しているの。それでお腹を壊されたら、責任問題とかになっちゃうんだからね。普通にあげることはできません。そういう甘い考えてきているなら即刻返って――」


「それに群がる虫と野良犬なんかが目当てなのじゃ」


「目的がいささか猟奇的!? えっ、ちょっと、待って!? 利用用途は!? なんかこう、クエストの素材的な使い方をするんだよね!! 間違ってもその、お腹を壊して責任問題になるような、そんな感じの食い方はしないよね!?」


「……まぁ、人間やろうと思えば、なんだって食べれるものなのじゃ」


「フォックス!? 人間、そんなの食わないフォックス!? どうかしてやがる――」


◇ ◇ ◇ ◇


 俺と加代は頑張った。

 精一杯、頑張った。


 自分たちの持ち味を活かせるように、工夫を凝らし、知恵を絞り、今出すことができる最大のスペックで、この大会に挑んだ。


 しかし――。


「いや、何を言っているかよく分からなかったなぁ」


「そもそもコントってなにさ。よく分からない」


「スーパーマーケットとは何者だ」


 という塩梅である。


 あぁ、オラ、こんな異世界嫌だ。

 オラ、こんな異世界嫌だ。


 はやく現代に帰るんだ。


 そんな絶望感に追い打ちをかけるように――。


「桜&加代ちゃんチーム。暫定最下位です!!」


 無情な結果まで耳に飛び込んでくるのだった。

 とほほ、こりゃ、ないぜぇ。

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