第533話 なにわの加代ちゃんで九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
マッスルグレート冒険者をぎゃふんと言わせるべくイキッた桜。
しかし、そんな彼は気が付くと、彼らに手玉にとられて、漫才大会へと参加しなくてはいけない運びになってしまうのだった。
はたして漫才大会とはなんなのか。
漫才ならば彼らにも勝ち目があるのか。
そもそも、漫才みたいな人生を送っといて、いまさらなのか――。
「ほっとけなのじゃ!!」
「俺らも好きでそんな生活している訳じゃないっての!!」
そんなこんなで、武闘大会から一転しての漫才大会がここに開催。
はたして桜と加代ちゃんは、無事に大会で優勝できるのか。
◇ ◇ ◇ ◇
結論から言うと、しぶしぶという感じに、会場に集まった見物客たちは、俺たちの興行を認めてくれた。ここまでしておいなにもやらないよりはましという感じではあったが、それでも気分的にはなんだかとても助かった。
まぁ、せっかくだから見ていくかと、嘆息して闘技場に腰かける市民たち。
その姿にほっと額の汗を拭う、実行委員の娘たち。
そして、この大会に出場しようかと準備していた男たち。
なんにしても、大会の開催が決定したことにより、多くの人が安堵していた。
ぬぅ。
複雑な心境だが、まぁいい。
このおかげで、マッスルグレート冒険者たちに復讐する機会が得られた。
おのれ、剣ではとてもかないそうな相手ではないが、お笑いならば話は別だ。
実生活で、ショートコントみたいなやりとりを、延々見せつけられてきた俺を舐めるな。
キリと俺は眉根を寄せた。
「のじゃ、そんな気合を入れなくても、出番は後の方なのじゃ」
「……だよねぇ」
引きがいいのか悪いのか。
それともいつもの悪運か。
くじ引きで決まった出番は――九尾の尾の数九番目だった。
参加者全十名という本家を彷彿とさせるガチンコ漫才バトル。果たして、誰が勝つのかは分からないが、こういうのは案外順番というのが効いてくる。
ホットな笑いの後には必然笑いが抑え気味に。
冷えた笑いの後には取り戻すように笑いが過剰に。
それでなくても点数制。軸となる笑いがあれば、それを基準に点数はつけられるが、最初の方は手探りである。
よっぽどの傑作漫才でも繰り出さない限り、初手は危険。
逆に後ろに行けば行くほど、比較対象がある分、それを上回る技術こそ要求されるが、対策自体はとりやすくなってくる。
とまぁ、そんなことをガチンコで考えてしまう。
言うまでもなく、俺も加代も――割と真剣にこの大会には挑んでいた。
「のじゃぁ。まさか賞金がそのままこちらに横流しされるとは予想外」
「その賞金があれば、新しく家を買いなおすこともたぶん可能な感じ」
「そして、妾たちの家を焼いた、あやつらをぎゃふんと言わせるチャンス!!」
「脳筋野郎に漫才のような高度なやり取りは不可能!! 筋力に劣る俺たちが彼らに勝つためには、絶好の舞台!! やることは別として、よくもまぁ、こんなシチュエーションを用意してくれたぜってもんだぜ!!」
打倒、マッスルグレード戦士。
筋肉で敵わぬのならせめて会話で。
俺たちは、そんな思いを込めて、この戦いに挑もうとしているのだった。
「頑張るのじゃ、桜よ!!」
「おう!!」
「さぁ、それではいってみましょうか。まずはトップバッターはこの人。武運は抜群。時の運さえも味方につけた。今年度武闘大会の優勝者ゴリアテ&ゴルゴン」
「……筋肉芸!!」
「真夏の、砂浜で、男を待つ、男の、筋肉!!」
シュールしかも特殊系かぁ。
トップバッターを引いた、マッスルグレート冒険者の、なんとも締まらないコント名に、俺たちは無表情になった。
しかし、無表情になりながらも、その勝利を確信していた。
勝てる。
色物芸なら勝てる。
こちらは人生ほとんどコントなオキツネ様がいるんや。
普通に話してても勝てるわい。
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