第532話 第一回お笑い選手権で九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 大会終わって翌日。

 なんとそのたった一晩で、武闘大会の優勝候補三チームが棄権してしまった。

 果たして彼らの身にいったいなにがあったのか。

 どうして危険をしなくてはいけなかったのか。


 それは――ぶっちゃけどうでもいい。


 性根が基本的に腐り切っている桜くん的にはそんなことはどうでもよかった。

 それよりも、彼らが棄権したことにより、準決勝に残った最後のチーム――自分の家を焼いた男たちマッスルタフガイに優勝の栄冠が行くのが気に入らなかった。


「やり直しじゃい!! やり直し!! こんなん無効試合ですわーい!!」


 そんな感じで騒ぎ立てる桜と加代たち。

 と、そこに現れたのは――件のタフガイ冒険者たちなのだった。


「話は聞かせて貰ったぜ」


「アタシ、たち、戦い、不足。有体に、言って、欲求、不満よ」


 はたして彼らの目的とはいかに。


◇ ◇ ◇ ◇


「と、いうわけで。大会二日目が興行不可能になったため、武闘大会は急遽中止。これよりの時間はその代替として――ドキドキ異世界漫才バトルナンバーワン選手権。略してD-1開催でございます」


「各国から集まった、話芸に自信のある者たちが、一番面白い話を披露するべくしのぎを削る。笑撃のエンターテイメント」


「「ということで、一つ許してください観客の皆さん!!」」


 戦士たちのいなくなった闘技場の上。

 そこで声を振り絞り、演説をするのは武闘大会の実行委員たち。


 アクシデントとはいえ、興行が失敗に終わり、多くの人々が嘆きとも怒りとも取れない視線を向ける。

 そんな中で、彼女たちは立派に演説をこなした。

 こなして、どうかどうかこれで許してくださいと人々に許しを請うた。


 そりゃそうだ。


 彼らは大陸一の武芸者たちの手に汗握る格闘を見に来たはずだった。

 なのに、その予定が全ておじゃん。二日目、白熱する準決勝以降の試合は、全て無効になってしまったのだから。


 楽しみを全て破壊されて、ぶーを垂れない訳がない。

 彼らが怒るのはよく分かった。


 そして、その埋め合わせとして、提供されるのがまさかの漫才大会。


「これ、納得するのか?」


「のじゃぁ。正直、わらわとしてはなんとも」


 闘技場の脇に並ぶ俺と加代。

 俺たちはどちらかと言えば見る方よりも見られる方、運営側の立場でその光景を眺めていた。というのも、この武闘大会に代わる取り組みに対して、俺たちは深くかかわっていたからだ。


 案自体は出してこそいない。

 けれども、ゴリアテたちの優勝は認めないと、待ったをかけたのは俺たちだ。

 そのまったの言葉尻にのってどうしてこうなったのかは分からない。


 分からないが――。


「ふっ、腕が鳴るのじゃ」


「鳴らす、のは、喉だろ。この、馬鹿」


「のじゃぁ、またしても上手いこと乗せられた感が半端ないのじゃ」


「本当にな。ちくしょう、ほんと腹立つこいつら!!」


 なんやかんやと彼らと話すうちに、いつの間にやら武闘大会の代わりに、お笑い大会をやろうということに話はなってしまったのだった。そして、そのお笑い大会に、半ば俺たちは無理やり参加させられたのだった。


 勝負は勝笑で付けるべし。


 そう啖呵を切られたら、こちらも黙っちゃいられねぇ。

 再び、加代ちゃん&桜くんコンビを結成すると俺たちは、今度は漫才での勝負に挑もうとしているのだった。


「どっかんどっかん、笑わしてやるのじゃ、桜」


「おう!! そんな気負わなくても、大丈夫やで、加代!!」


「どういう意味なのじゃ!!」


 普段の君が一番面白いって意味だよ。

 やだ、もう、言わせんなよこんなこと。


 なんにしても、マッスルグレート冒険者をぎゃふんと言わせるためにも、これは避けては通ることのできない試練だ。


 やるしかない。

 絶対に、アイツ等に優勝なんてさせてなるものか――。

 そして加代さんのナチュラルズッコケ九尾っぷりを、会場の連中に見せつけてやるのだ。


 いいか。

 うちの加代さんの履歴書の職務経歴欄は、エクセルみたいになっているぞ!!

 書くことが多すぎるんだよフォックス!!

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