第513話 異世界白アリで九尾なのじゃ

 さて。

 結論から言えば、俺たちは別に無断欠勤を理由に会社を解雇クビにはならなかった。

 というか、そもそもそんなことでどうこう言われることもなかった。


「え? 出社しなかった分だけ給料が減るだけだよ? なに言ってるのさ解雇なんて。こんな人のいない田舎街で、そんなことできる訳ないじゃない。猫の手だって借りたいくらいだってのにさ」


「ぐぅの音もでないほどにホワイト!!」


 あっさりと無断欠勤を許される俺。

 そして、加代もまた同様に、勤め先の冒険者ギルドで許されたらしかった。


 かくして俺たちは、異世界に来て初めて経験するクビの危機を乗り越えた訳だったのだが――。


「なのっ!! さくらお兄ちゃん!! かよお姉ちゃん!! たいへんなの!!」


「きゅるくるくぅううん!!」


「どうしたなのちゃん?」


「のじゃぁ? なんで家の外で待っておるのじゃ?」


 どうやらほのぼの商人プレイでも、イベントが発生しない訳ではないらしい。

 仕事の方は順調だが私生活の方で今度は問題が発生した。


 家に戻って来てみれば、何故か庭に出て俺たちの帰りを待っている、植物少女とドラゴン。なにかが起こったのは間違いないが、家を外から見た限り何か問題が起こっているようには思えない。


 出てくる前の通り。

 ただの木造住宅だ。

 蔦は多いが大きい我が家である。


 けれどもなのちゃんたちが俺たちを不必要にからかうようにも思えない。

 どうしたことかと俺と加代は首を傾げて、とりあえず不安げな様子のなのちゃんに近づいた。


「俺たちが留守の間に何かあったのか」


「のじゃ、悪い人でもやってきたのじゃ?」


「なんラックスみたいな感じのひどいことされたんか!! もしそうなら無理して言わんでええねんでなのちゃん!! 大丈夫、仇はそれでもとったるからな!! 桜やんがワイを持ってダイコンカリバーくらわしにいったるさかい!!」


 子供の前でそういうこと言わない。

 というか、なんラックスとか言うな。

 お前、そんなまたマニアックな。


 この小説はKENZEN、すけべなこと少しもないが売りのオキツネ小説なんだから。そういう表現はフォックスフォックス隠さなくちゃいけない。


 自重しろ、この白い癖に黒モザイク修正入りそうな腐れダイコン。


 さておき何があったのか。

 涙の代わりにあわてふためくなのちゃんを落ち着かせる。すると彼女はようやく家で起こったとある事件について語ってくれたのだった。


「なの!! 実は、家を乗っ取られてしまったの!!」


「きゅーん」


「ほら見ろ!! 聞いたか桜やん!! やっぱりなんラックス事案やで!!」


「いや、なんラックスそういうんじゃないやろ。もっとこう、とんでもなく救いがないような、そういう感じのあれじゃん」


「のじゃ。さっきからなんなのじゃ、その、なんラックスって」


 加代さんは知らなくていいフォックス。

 というか、深く聞かないでフォックス。

 大人の男の嗜みみたいなもんフォックス。

 蛸壺みたいなもんフォックス。


 俺は、はしゃぐダイコンを叩いて黙らせた。

 そしていったい何に乗っ取られたんだいとなのちゃんに問いかけた。


 すると――。


「なの!! キング白アリなの!!」


「……キング」


「……白アリ」


 異世界に白アリがいるのもびっくりだがキングもいるのか。


 というかなんだそのモンスター。

 ファンタジーはファンタジーでもそんなのが出てくるのは――。


「核戦争後の世界なのかな、ここは」


「のじゃ。なんか古めかしいPCがある辺り可能性はなきにしもあらずなのじゃ」


 どっちかっていうと、同じベ〇ソダスにしても、未来の方のRPG作品の感じであった。


 火を噴くアリとか、そういや、居ましたね。

 懐かしい話だ。


 まぁ、人間に突然変異した狐のミュータントとこれまで一緒に生活しておいて、いまさらな話ではありますがね。

 フォックス。

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