第508話 エルフの扱いで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 異世界に行ったら言語が通じる問題。

 持っている知識で変換されるので、どう翻訳されるかで前の世界での性知識が問われてしまう訳ですが、見事にKENZEN脳を看破された桜なのであった。


◇ ◇ ◇ ◇


 まぁ、割と直球ドスケベな店に行ったことはない俺である。

 東京で夜遊びするにしても、ガールズバーが関の山。

 クラブなんかも行かせてもらったが、上品なお店でとてもじゃないけどそういう直接的な勧誘をしてくるようなものではなかった。


 いや、そりゃ聞こえてくる言葉が穏当なのも仕方ないよね。

 それでもスーパーの客引きっていうのはどうかと思うけど。逆に猟奇的だわ猟奇的フォックス。わはは。


「よっ、そこの兄ちゃん元気がよさそうだねぇ!! どうだい、ウチで一杯飲んでかないかい!! ウチの娘は絶品だよぉ!! さぁ、見てって頂戴!!」


「南の国からやって来た娘を取り揃え!! 南国特集開催中!! 開催期間終了間近だよ!! 見ていくだけでもいいからよってかないかい!!」


「良いパパ、良いママ、良い娘!! みんなが喜ぶ夜のお店だよ!! 行こうよ、ヨドバ〇ガールズバー!! 今ならポイント5パーセント還元!!」


「これ大丈夫なネタ!? いくらギャグでも問題にならない!?」


 猟奇的なのに混じってカオスなのも混ざってるがな。

 まぁ、家電品は最近はもっぱら便利にそちらのカメラでお買い求めさせていただいてますけれども。したってこんなタイミングで出てくる必要ありますかね。


 あらためて思い知らされる性的な知識のなさ。

 自分のピュアピュア脳の翻訳能力的にどうなのと思ってしまう。


 しかしサウンド的に誤魔化すことができても、ビジュアル的には誤魔化すことができない。


 ちらりちらりと覗ける大通りから続く路地裏。

 そこに姿を隠してこちらを伺う者たち。

 その瞳はとても艶めかしく、そして途方もなく疲れている。


 思わず同情で心が揺れてしまいそうなそれを見ながら、俺は彼女らあるいは彼らの耳が、どれもこれも尖っているのに気がついた。


 なんというか――。


「……あっちの世界でも夜鷹みたいなのは流石にいなかったよな」


「そうか桜やん? 夜の街とか歩いてると、時々声かけられるで。まぁ、十中八九ヤバい奴らやからついてったらいかん奴やけどな」


 漫画かアニメか小説か。

 そんな世界の存在と思えた生業が確かにそこには存在している。そして、そんな生業をしなくてはいけないエルフたちが多く存在する。


 異世界がどうこうと浮かれていた気分が一瞬にして吹っ飛ぶ。

 この世界、流石にあの駄女神が斡旋するだけあって性質の悪い世界観をしている。そして、見ていて気分の悪くなる光景に間違いないものだった。


「……桜やん。これ、結構マジな話に首突っ込んだみたいやで」


「あぁ」


「おとぼけファンタジーやと思うていままで見過ごしてたけど、不穏な感じがビンビンしてくる」


 覚悟はええかと俺に問う大根太郎。

 KENZENな脳みそで情報がフィルタリングされている俺と違って、世の中の暗い部分を見てきた彼だ。きっと、この世界の残酷さについても、おれよりよっぽどはっきりと見えているに違いないだろう。


 彼の言葉には珍しい重みが感じられた。


 一人のエルフと視線が合う。

 あきらかにその手の仕事をしているという感じではない彼女は、にっこりとほほ笑むと、まるで俺たちの探し物がなんであるか知っているように手招きをする。


 その誘いに乗るか、それとも、無視するか。


 決まっている。


「半端な覚悟はここで捨てる必要がありそうだな」


「安心しいや桜やん。ワイも結構修羅場はくぐって来たからな、力になったるで」


「……頼むぜダイコンの」


 俺と大根太郎はその路地裏エルフに向かって歩き出すのだった。

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