第507話 異世界KENZENカフェで九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
エルフ趣味の黒騎士が向かった先は間違いなくエルフたちの下。
異世界でエルフが街で暮らすスタイルは大きく分けて三つ。冒険者として、水商売のキャストとして、あるいは物好きな人の奥様として。
それぞれのコミューンにアポイントを取って、黒騎士の行方を探ろうとする桜たちだったのだが――。
「さーて、それじゃ、異世界エルフ風俗クロスレビューでもはじめますか」
「レビューアがダイコンのあたりで期待してくれてええねんで」
完全にオスの顔。
久しぶりにスケベ根性を刺激された桜、そしてもはや歩く十八禁と言っていいダイコンが悪ふざけを始めようとする。
そんなところを、すかさず加代が止めるのであった。
「とはいえ、水商売してるエルフのコミューンには接触するのは変わらない」
「先っちょ、先っちょだけ、おろしてくれていいから!!」
「のじゃ!! 桜ァ!! ダイコン太郎ォ!!」
◇ ◇ ◇ ◇
さて。
水商売エルフなんてものがあるのかと、なんだかグルメ漫画の独白みたいな感じでやって来ました色街。
はたしてどんな魔窟だろうか。
そもそも昼間からやっているのか。
そんな思いを浮かべながらうろうろとしていると――。
「いらっしゃい、いらっしゃい。お兄さん、もしかしてお店探してます? いい娘いますよー?」
なんか東京の夜の街を歩いているような声がしてきた。
思わず俺とダイコンは顔を見合わせる。
「……なんや、異世界やのにありがたみのない掛け声やなぁ」
「あれだな。俺たちの脳内で分かりやすい言葉に置き換えられてるだけかもしれないな。人間の持ってる知識によって異世界の言葉が翻訳されるっていう」
「したら桜やんとワイは同じレベルのドスケベいうことになる訳か」
「おいおい冗談はよしてくれよ大根の。俺が大根おろししてやろうか?」
「ノーサンキューやで!!」
こいつと同じ性知識とかこちらがノーサンキューである。
発言の節々から同年代っぽいのは分かるけれども、思考回路まで同じというのは流石に。こじらせロリダイコンと一緒なんてちょっと精神的に耐えられなかった。
まぁ、それはそれとして。
ありがたみのない掛け声なのは本当である。
「もっとこう、異世界っぽい掛け声だったら、こっちもちょっとテンション上がるのにな」
「なんや桜やん。嫁から浮気はあかんて言われた手前、なに言うてんねん。ほんまもうしょうのないやっちゃのう」
「ダイコンよぉ。それとこれとは話は別。女は港。最後に戻っていけばいいだけの話じゃねえか」
「そして浮気は男の――」
文化。
そう、文化なのだから仕方がない。
甲斐性ではなく文化なのだ。
文化は大切にしなくてはいけない。
だんじて俺たちがスケベな訳ではない。お互いの世界の文化を大切にし、今、肌と肌を触れ合わせてお互いを理解する必要がある。
そう思ったからこそ俺たちは――。
「安いよ安いよ!! 今日は活きのいい娘が入ってるよ!! 採れたてぴちぴちだよ!! 産地直送生エルフ!! 生エルフだよ!! さぁ、タイムセールだ、今ならなんとお値段一割引き!!」
「おほっ、あんなドスケベな勧誘文句言うたら都条例でしょっぴかれるで。このあたりは異世界って感じやなぁ。規制がまったくあらへん……って、桜やん?」
「……OH」
「なんや桜やん。顔真っ赤にして俯いてからに」
聞こえてくる文句が全部スーパーのタイムセールに聞こえる。
持ってる知識に変換されるにしてもこの翻訳のされ方はどうなのか。
浮気は何とやらとか言ったけど――。
「スケベやで、ほんまこの世界どスケベやで、さすがや」
「……俺、意外とKENZENな脳みそしてるんだなぁ」
あらためて、自分の世間知らずさに俺は瞼を閉じた。
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