第491話 この子なんの神で九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 子供離れした謎の動き。

 魑魅魍魎ではなく神仏の類の子供と出会った桜と加代。

 魔法使いアリエスの攻撃を回避してけろりとした顔をする。更に銃を取り出し発砲――と見せかけ手品をしてみせた謎の存在を前に、彼らは戦慄した。


「なるほど、それでワイの魔眼も通じへんかったんやな。もしかしたらワンチャン男の娘かもと思ったけれど、そんなことあらへんかったんやで。ワイの見る眼もなかなかやな」


「何をお前は自慢げに言ってるんだ」


「のじゃぁ。というか、そういうことなら違和感に気が付いた時点で言って欲しいのじゃ。迷惑な大根じゃのう」


◇ ◇ ◇ ◇


 いったいこの謎の子供は何者なのだ。

 トリックスターがどうのこうのと言っていたがまったく意味が分からない。しかも加代が言うには魑魅魍魎ではなく神仏の類という――。


 待て。

 神仏の類だと。


「するってぇと、アンタもしかして、神さまって奴なのか!?」


「馬鹿なこと言うんじゃないよなのだ。あたしゃ神様じゃないよの反対の正解なのだ」


「どっちなんだよ!?」


「のじゃ、反対で正解だから神様に間違いないのじゃ!! 桜!!」


「桜やん!!」


 マジかよ。

 こんな旅の途上で神様と出会うとかとんだ話もあったもんだ。


 てっきりと、神と会うなんて相当な高難易度イベントだと思っていたけれど、どうやらそうでもないらしい。まさか向こうからやって来てくれるなんて。


 伊達に幸運値がカンストしているだけはある。

 思いがけず幸先の良い出会いに俺は思わずガッツポーズを取った。


 一方で――。


「……オッサムたちの仲間!! くそっ、厄介な所で会ってしまった!! シュラトさまもいないこのタイミングで、なんて間の悪い!!」


 悔しそうに顔を歪めたのはアリエスちゃんだ。

 オッサムというのはたしかこの世界で崇められている主な神の名前だったはずだ。なぜそれで驚いているのかは、まぁ、この世界の住人でない俺が考えても仕方ないことだ。


 そこはスルーしておこう。


 しかし、彼らは基本的に人間に対して不干渉だと聞いた。

 けれどもこうして向こうから出てくるとは――本当に驚きだ。


 しかも、神というからもっと神々しい姿を考えていたが、思った以上にフレンドリー。親しみやすい。なんというか出会い頭に驚かされこそしたけれど、人気漫画の主人公的な気さくさを感じる。


 これなら聞けるんじゃないだろうか。


 アリエスちゃんが驚いて動けなくなっているのが気にはなったが、俺はその神と思われる子供に近づいた。


「あ、あの、すみません、神様なんですよね」


「さっきからしつこいのだ。そう言っているのだ。さては君は馬鹿なのだ」


 あ、フレンドリーじゃない。

 これどっちかって言うと不条理って感じだ。


 棘のある切り返しにちょっと心が痛む。そんな俺のことなど興味ない感じに、子供はふふんと加代の方を眺めて――それから大根太郎へと視線を向けた。


「すけべ大根を仲間にするとは。たいへんなへんたいなのだ。やれやれ流石だなどスケベさん、さすがだ。なのだ」


「……えっと、神様なら是非名前を教えていただけませんかね。あと、できればその権能についても教えていただけると助かるんですが」


 馬鹿っぽくない感じを努めて作りつつ尋ねる。

 すると子供はツンツンと大根太郎の頭をつつきながら、興味もなさそうにこちらに背を向けたまま答えるのだった。


「アッカーマンなのだ。トリックスターアッカーマン」


「……トリックスター」


「……アッカーマンなのじゃ」


「アッカーンの上にマンなんてなかなやる名前の神様やん。トリックスターてあれやろ、ココペリとかそういう卑猥なかみさ――へぷげれ!!」


 突然火の球が飛んできたかと思うと大根を焼く。

 こんがり焼かれた焼きダイコン。はたしてそれを調理したのは――あきらかにアッカーマンの登場に取り乱していた女ダークエルフ。


「……嘘でしょう1? よりにもよってアッカーマンですって!?」


 アリエスちゃんであった。

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