第466話 貴方は大根ですかで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


「〇紳様ァー!!」


 大根太郎を餌にして、桜は渾身の一投を川に向かって投げた。

 すると、うんとこしょどっこいしょ、株を抜く様な今日一番の重い引きが竿に伝わったのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


 この強い引きは間違いない。

 大物の気配。


 あまり釣りは経験のない俺だけれども、根がかりした感じでないのは分かる。

 そして、大根太郎が暴れている訳でもないのもなんとなく分かる。

 あきらかに何かが大根太郎に食いついた――そんな感じだ。


 焦らずじっくりと、大物の餌をついばむ感覚に神経を研ぎ澄ます。

 そう、がっつりと大根太郎を首元まで飲み込んで、リスポーンするくらいになるのを根気よく待つ。それから、ひょいと軽く引っ張り上げてやるのだ。


 釣りに必要なのは腕力でも瞬発力でもない。

 魚とじっくりと根競べをする忍耐力が大切なのだ。


 引き上げる潮目を待つ。ちゃぷりちゃぷりと波間を大根太郎の頭の葉が揺れている。それがひときわ、大きく沈み込むのを見て――。


「今だ!!」


 俺は竿をくいと軽く引いた。

 すると――。


 ざばり波を立てて川面から姿を現したのは、白いストールを身に纏った女。

 青い髪をした彼女は、目を閉じたまま静かに手に、金の大根と銀の大根を手にしていた。


 うむ。


「貴方が落としたのは、この銀の大根ですか、それとも金の大根ですか」


「いいえ、限りなく卑猥な口にするのも汚らしい腐れダイコンです」


「「ひどいわ桜やん!!」」


 シンクロして喋る金の大根と銀の大根。

 まるでキン〇マンの金のマスクと銀のマスクみたいに、ふんわりと宙を浮遊したその二つの大根は、俺の前に降り立つとその頭の菜を振り上げて抗議した。


 うぅん、なんというか、とんでもないものを釣っちまったぞ。

 そして、正直に答えるんじゃなかったぞ。


「正直者の貴方には、この金の腐れダイコンと、銀の腐れダイコン、そして、オリジナルの腐れダイコンをあげましょう」


「うわぁ、どれもいらない」


「「「そんな殺生な!! 友達やろ、桜やん!! 見捨てんといてや!!」」」


 そう言って泣いて講義する腐れダイコンだが、残念ながら、そんなモノになった覚えは、俺には少しもないのだった――。

 やれやれ。


「まさか異世界に来て、湖の女神を釣っちまうとはな」


「「「ほんまおどろきやでー!! けどまぁ、金のワイ、銀のワイ、普通のワイと、頼れる仲間が増えてよかったやんか!!」」」


「……リスポーンって、この場合どうなるんだろうな」


「「「せやから桜やん!! そんな怖い顔せんといて!!」」」


 金、銀は砕かないと売れないだろうからなぁ。

 こんな腐れおしゃべりダイコン。中古屋でなくっても、買取拒否。


 二束三文で買いたたかれるのがオチだってーの。

 とほほー。


「やっぱり、海老でタイを釣るようには上手く行かないか。腐れダイコンで釣れるのは、腐れダイコンだけということだな」


「「言うてる傍から金のワイがやられた!!」 あぁ、銀のワイまで!!」


「心配しなくても、普通のお前は残しておいてやる」


 またあれだ、川に投げ込んで金と銀の大根を手に入れなくちゃだからな。

 ふぅ。こりゃあれだね、バグ技って奴だね。


 いやはや、まぁ、誰が腐れダイコンを、川に投げ込むかって話だわな。

 誰もやらんわ。デバッグ工程からも除外される項目だわ。

 そもそもこんな腐れダイコンを仲間にしないわ。


「鬼!! 鬼畜!! 〇寿司!!」


「はっはっは。せっかくだから、お前も刺身のツマにしてやろうか」


 そんなこと言いながら、割と余裕なのが絶妙に腹が立つのよね。

 この腐れダイコン。


 ほんと、調子がいいって言うか、リスポーンするからって呑気というか。


 あと、何が〇寿司か。

 そういうとこだぞ。

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