第465話 爆釣で九尾なのじゃ

 さて。

 冒険者たちに連れてきて貰った川辺にて、ぶらり竿を垂らすこと一時間。


 一緒に持ってきたバケツの中には――。


「割と大漁なんだけれども。なんだこれ、クソゲーか?」


「割とスポーンスポーンリスポーンって感じで釣れるよね。実は毒持ちのモンスターとかじゃねえ?」


「いや、毒持ってんのはお前だろ、有害大根」


「ふふっ、そこは女の子もおらんことやし、このロリ根と罵ってくれても構わないんやで、桜やん? 俺らの仲やろ?」


 そんな急激に仲を詰めた気はないのだけれども。

 なんにしてもムカついたので、魚で満ちるバケツの中に大根太郎を突っ込んだ。

 これが本当の生大根おろしってな。


 ははは。


「うわーお!! 桜やん!! ちょっと、ちょっと堪忍!! この魚たち、びっくりするほど雑食性!! 絶対美味しくないことうけあい!!」


「そだねー」


「うわぁ、なにその蠆盆に落とされる罪人を見る様な目!! ちょっと、桜やん!! 食われてまう!! 食われてしまう!! このままやとワイ、お魚さんたちの栄養になっちゃう!! 撒餌やないねんで!! かけがえのない大根なんやで!!」


「いや、言ってお前、すぐに復活するだろ」


「せやろか」


「せやろ」


 言っている間に、ぼろぼろに食い荒らされる大根太郎。

 その肉体がこの世から消え去ったと思うや否や、ひょいとバケツの横にリスポーン。生まれたままの姿ならぬ、抜かれたままの姿で現れたのだった。


 うむ。ほら、言った通りになっただろう。


「せやった」


「せやろ」


 唖然とした口調で言う大根太郎。

 そんな彼に背を向けながら、俺は竿にまたミミズを括りつけて川に放り投げる。


 なんだかな。あまりに簡単に釣れ過ぎて張り合いがないというか。

 なんというか――。


「もうちょっと異世界らしい釣果が欲しいところだよな」


「と、言いますと?」


「こう、あれだよ、モンスターを釣るとかさ。そういうの」


「自分からトラブルに巻き込まれに行こうとするとは、なかなか見上げた根性やんけ。その勇気に、このワイは敬意を――えっと、桜やん。この頭に刺さった針はいったい」


 いや、やっぱりこういうミニゲームって、餌も大切だなって思ってさ。

 ミミズばっかり使っているからこういうのしか釣れないのなら――。


「大根使えば、また違うものが釣れるかなと思って」


「あっはっは、またまたそんな、ご冗談を」


「ほーれ、フィーッシュ!!」


「グランダー!! ダイコン!!」


 俺は力いっぱいに、それこそ、糸ごと飛んでけとばかりに、大根太郎の刺さった竿を、川に向かって投げ込んだのだった。


 はぁ、ほんと。

 異世界釣りなのだから、変わった魚の一匹くらい釣れてもいいよなぁ。

 なんでこんなブラックバスみたいなのしか――。


「と、おぉっ!?」


 なんて思った時だ。

 ここに来て一番、重たい引きが俺の竿をしならせた。

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