第461話 釣り場を探してで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 なんやかんやで畑と釣りのミニゲームをアンロックした桜と加代。

 しかしながら、本編がサクサク進む感じのストレスフリーなホワイトゲームなのに対して、ミニゲームの方は無意味にクオリティよりリアリティが強いクソゲーにしてブラックゲームなのだった。


「のじゃ、普通、ミニゲームの方が面白いものなのじゃ」


「そういう匙加減を間違えてんだよ、本当にこの作品は」


◇ ◇ ◇ ◇


「用水路に魚ぁ? いる訳ないじゃない? 生活用水だよ、なに言ってんの」


「……そんなもんなんですか?」


「綺麗な水に魚なんて棲む訳ないじゃない。せめて街はずれまでは出ないと。まったく――なんでもできるような顔して、割と抜けているところがあるんだね。驚かせてくれるじゃないのさ」


 はっはっはと笑って俺の背中を叩く、水質管理センターの室長さん。

 主任とか、係長とか、課長とか、そういう肩書があるのかどうだかわからないけれど、彼が偉いことはなんというか間違いなかった。


 そんでもって仕事ができないのも間違いなかったが、そんな彼に常識を笑われるというのはちょっとむっとした。まぁ、社会人として顔には出さないが。


「あれ、もしかして怒った?」


 顔に出てしまったらしい。

 あれだね。プログラマーは社外の人と接することが少ないから、どうしてもそういうコミュニケーション能力が発達しないよね。いけないいけない。


 割と体よく出されていたような気がしないでもないけれど。

 まぁそれはさておいて。なんにしても、俺は昨日の釣りがボウズに終わったという話を、なんの気なしに同僚に語った。その返事がこのどこか小ばかにするような言葉である。


 ついでにうぷぷと口元を隠して笑うというモーション付きだ。

 これで普段から仕事をしない嫌な奴だったら、思わずぶん殴っている所だが、基本いい人なので我慢することにした。


 というか我慢した。

 ぐっとこらえた。


 がんばれ桜、負けるな桜。

 現代と違う異世界でお仕事でも、そこはぐっと我慢するだ。

 社畜根性を思い出せ。


 というか、これ、仕事でもなんでもない雑談なんだからな。


 深呼吸して俺は異世界での上長に答えた。


「怒ってませんですのだ」


「いや、怒ってるでしょ。語尾変になっちゃってるよ。ごめんごめん。からかっただけだよ、そんな拗ねないでよ」


「拗ねてないですのだ」


「拗ねてるよね。なんだよ可愛いところあるじゃないのさ」


 可愛くないですのだ。

 ぷいすと顔を振ってPC〇8に向かおうとした俺を、上長さんが止めた。いやいや、そんな邪険にしなくてもいいだろうと、彼は人のよい笑顔を俺に向ける。


 なんというか、妙な親しみが増したような気がした。

 まぁ、この流れで、この反応で、この調子で、続きがなかったら話がおかしい。

 なんとなく、上長の言いたいことは聞くまでもなく察せられた。


「まぁ、かくいう僕もちょっと釣りには凝っててさ。なんだったら、いい釣り場を教えてあげようか」


「いいですのだ、自分で探しますですのだ」


「変なキャラを作ろうとしなくてもいいからさ。もう、職場で同じ趣味の人がいると、テンション上がるじゃない。それでなくても初心者でしょう桜くん。ちょっと教えたくなるのが人情じゃない。これも社会人の人付き合いじゃないか」


 異世界に行っても、こういう所は変わらないのだなぁ。

 同じ趣味を持ってしまった先輩に、会社でも趣味でもあれこれ御指南される。

 それが結果として円滑なコミュニケーションをうむ場合もあるけれど。


 今回の場合はどうだろうな。


 まぁ、話くらいは聞いてやってもいいだろう。要領は悪い人だけれど、人格は間違いなく、これまで一緒に働いてきた人たちのなかで一番いい人なのだから。

 拝聴しますと、俺は彼の方を向く。俺たちと変わらないのっぺりとした顔をした俺の上司は、うんうんそうでなくっちゃと、心底楽し気に首肯したのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「のじゃ、それで、街はずれにある川が穴場と?」


「おう。穴場というか、釣りのスポットというか。この街の釣り趣味の人は、休日は必ずそこに行くんだそうな。あとはもう少し離れた所にある、農業用の貯水池があるんだが、こっちは蛙のモンスターが出るらしくて、冒険者の心得がないと危険らしい」


「なの。大変なの」


「くるるぅん」


 心配そうな声を上げるドラコ。

 おそらく、川や池で出会うモンスターよりも、おっかないであろう彼に気遣われるのは、なんだかこっちとしても微妙なものだった。


 とはいえはっきりしたことが一つある。

 それは――。


「つまりだ。この街の中ではいくら釣り糸を垂らしてみても、魚は一匹も釣れませんと、そういうことなんだな」


「のじゃ。そういうことなんだなって、桜よ」


「簡単に手に入るもんだから、簡単に副職にできると思ったけれど、意外と難しいやこれ。あははは」


 笑って誤魔化してみたけれど、加代ちゃんの顔は笑っていなかった。

 どうすんだよという非難の視線がありありと俺の顔に突き刺さって来た。


 うぅん、ごめんよフォックス。無駄遣いだったねフォックス。

 そりゃ普通の釣竿だよフォックス。


「なの!! それなら、街の外に出ればいいのなの!!」


 と、謝って済まそうとした所に、大根太郎ではなく、なのちゃんが余計なことを言った。

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