第462話 ちょっとしたお使い(フラグ)で九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
街の中で魚なんて釣れるわけないじゃない。
という訳で、釣りをするなら街にサヨナラバイバイしなくちゃならないことを今更知った桜くん。
こりゃちょっと、魚で副業は難しいねと諦めかけたところに――。
「なの!! それなら、街の外に出ればいいのなの!!」
なのちゃんが突然そんなことを言い出したのだった。
なお、普段だったら絶対に、そういう要らんことを言い出す元凶、呪われし大根太郎は、縁側でグレイトフルな死――ひからびて干し大根状態――になっていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「なの。その上司さんが証拠なの。街の外に出るのは危ないって思ったけれど、よく釣りに行っているってことは、きっとうまく川までいく方法があるはずなの」
「……あー、まぁ、そういやそんなこと言っていたな」
「なの!! 諦めるにはまだ早いの!! 桜お兄ちゃん!!」
「のじゃ!!」
二人の視線が痛い。
使えない竿を掴まされて、もういいや、辞めますという感じで話を切り出したのに、意外にも彼女たちは話の要所を拾って食い下がって来た。
こんな展開になることならば、詳しい説明なんてするんじゃなかった。
なんて悔やんでも後の祭り。どうしようもなかった。
そう、実は街はずれの川まで、安全に行く方法はあるにはあるのだ。
あるのだけれども――。
「いわゆる、それって、護衛任務っていう奴でさぁ」
「のじゃ?」
「ごえーにんむ?」
「くるるーん?」
「ボスの娘がどうしたって!!」
いきなりリスポーンして話に青首を突っ込んでくる歩きダイコン。
それを叩いて再びリスポーン待ち状態にすると、俺は上司から教えてもらったその方法を加代たちに語った。
いや、語るも何も、おもっくそ普通の話である。
子供でも分かる簡単な話の道理だった。
「つまり、冒険者に送迎してもらうんだよ。川までな」
「のじゃ、冒険クエスト」
「なのぉ。難しいお話で、ちょっと分からないなの」
この世界で生きているなのちゃん――それでなくてもモンスターの彼女――にはそうでしょうとも。分からないだろうなと俺は苦笑いをこぼした。
しかしながら、そこそこゲームは嗜んでおられた九尾の加代ちゃん。そして、今はそのゲームのギルド嬢のお仕事をされている彼女には、それがどういうことなのか、よく理解できるようだった。
というか心当たりがあるようだ。
「のじゃぁ。そう言えば、休日に川辺に行くクエストを、幾つか扱ってた気がするのじゃ」
「そうじゃろう。それ。釣り好きの有志が出資して、冒険者雇って連れて行って貰っているんだよ」
「……つまり」
「行くのにお金がかかります。だから言いたくなかったんだよ」
ちなみに費用はまぁ、こちらの世界の食費三日分くらい。
そう言えば、釣りがたいそうな道楽ということが分かっていただけるだろう。
もちろん、冒険者たちからすれば道楽ではなく生きていくための手段だ。
だが、俺たちのような街で暮らす一般人には、よっぽど地形的に恵まれていない限りは難しい行為であった。
のじゃぁと加代さんが全てを察して息を吐く。
もう完全に、彼女はこっち側に落ちたといって問題なかった。
しかし――。
「なの!! 桜お兄ちゃんよかったなの!! これで釣りができるなの!!」
「……なのちゃん」
「きゅるきゅるきゅーん!!」
「ドラコも喜んでるなの!!」
問題はこの娘とドラゴンであった。
さっぱりと、そこの辺りの事情を察してくれないのは、幼いからか、モンスターだからか。なんにしても、純粋に釣りができることを喜ぶ彼女に、俺はどういう顔をしていいかわからなかった。
分からなくって、リスポーンしかけた大根太郎を、また、床に擦りつけて大根おろしにしてやった。
「ぎぇえぇえぇ!! 桜やん!! ちょっとぉ、八つ当たりは勘弁して!! 今回ワイ、なんも悪いことしてへんやん!!」
存在自体がお前は悪だろう。
だったら、俺のどうしようもない正義の怒りをぶつけさせてくれよ。
なんにしても、なのちゃんの善意百パーセントの顔を向けられては、いやいや、ちょっと手間なんですよと、断ることもできなくなる。
気の毒そうにこちらを見る加代。
それを後目に、また俺は薄いため息を吐き出した。
やれやれどうやら――。
「釣りイベント発生ということですか」
なんかこう、いかにもRPG的なおつかいイベントの発生に、ここはわくわくするべき所なんだろうけれど、すっとこどっこいアドベンチャーをここまで見せつけられているので、少しも俺は期待することができないのであった。
どうなるのかね、ほんと、これ。
無事に何事もイベントがなく、街に帰って来ることができればいいんだけれど。
「欲かいて副業なんてするもんじゃねえな」
「のじゃ、地道が一番ということじゃのう。とはいえ、まぁ、身から出た錆」
「せいぜい綺麗に落として来ますよ。とほほ」
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