第457話 違ったブレスオブ九尾なのじゃ
ウィンドウショッピングをしていたら見つけてしまった。
なんかこう、副業のネタになりそうなものを見つけてしまった。
それは古物屋の棚に普通に陳列されていた。
あまりに普通に陳列されていて、ちょっと目を疑ってしまったが、間違いなくそれはそう、RPGのやりこみ要素にして、おまけゲーム、そして、たぶん本編そっちのけで熱中するであろう、なんかそういう匂いを感じさせる副業のネタであった。
そう、古物屋で売られていたのは――。
「「普通の竿!!」なのじゃ!!」
普通の竿であった。
そう、上等な竿でもなく、ぼろっちい竿でもなく、普通の竿であった。
なんというか、行動するのに一日消費するタイプのゲームでもない限り、旅の途中で川を見つければ投げる感じの――そういう感じのアイテムであった。
男の子、こういうの、好き!!
すぐに俺は加代の奴に熱い視線を送っていた。
「ダメダメ、ダメなのじゃ!! まずはちゃんと薬草を育てるのをやってから、それから次の副業にチャレンジするのじゃ!! マルチタスクは失敗の最たるモノなのじゃ!!」
「けど、加代さん!! 普通の竿だよ!! どう見ても、これ、釣りシステムがある感じのRPGじゃん!! 普通の竿なんだよ!! どう考えても、普通の、なんて修飾語を竿につけるはずないじゃん!!」
「そうかもしれないけれど……のじゃぁ!! ほんとこの世界、ガバガバなのじゃ!!」
絶対これ、釣りシステムあるよ。
魚を釣って、金に換金するシステムあるよ。
そしてそこそこ儲かる奴だよ。割とスタンダードにお金を稼げる奴だよ。
買うしかない。この竿を。
加代さんお願いと俺は彼女の肩を抱いて迫る。先程、花屋に寄った際から出しっぱなしになっていた耳と尻尾がひょこひょこと揺れる。顔を赤らめて彼女は俺から視線を逸らした。これはあれだ、もう一息という感じの奴だ。
「お願い加代さん!! 俺、真面目に釣りするから!! 黄金〇とか釣りまくって、稼ぎまくるから!! 素材は手に入らないかもだけれど、頑張るから!!」
「ちょっと新しい感じの釣りシステムなのじゃ!! 巨大なモンスター吊り上げちゃって、難儀する奴なのじゃ!!」
「大丈夫、普通の竿にはガノ〇トスなんてかからないから!!」
というか、加代さんが買ってくれないなら、会社の金で買うから。
水質調査に必要とか、なんかもっともらしい名目で手に入れちゃうから。
それくらいの権限と信頼は、なんかしらんけど培っちゃったから。PC9〇のおかげで、培ってしまっちゃっているから。
けど、それほど高くないから、いいじゃない。
俺は加代に頭を下げてそれをねだった――。
のじゃぁと、気が抜ける声がする。
あきらかにいろいろと諦めた、そういう感じの声だった。
「釣りは一日一時間。ちゃんと畑と大根太郎の面倒を見ること。それが守れるなら、買っても問題ないのじゃぁ」
「やったー!! ありがとー!! 加代さーん、大好きー!!」
念願の、普通の竿を、手に入れたぞ。
俺はその場で飛び上がって喜んだのだった。
「ふっふー、これでいろんな所の魚を釣って釣って釣りまくって、稼いじゃうもんね」
「のじゃぁ。釣れるのが魚ばかりとは限らないのじゃ」
「靴とかね。そういう外れ系のアイテムを釣っちゃうのも、この手のゲームのだいご味と言えばだいご味だよね」
とにもかくにも、加代の気が変わらぬうちに、そして、竿が売れてしまわないうちに、俺は急いでそれを確保しようと古物屋の中に駆け込んだのだった。
「のじゃぁ。あっちの世界では釣りとかまったくしなかったのにのう」
いやいや。
現実世界の釣りは道楽だけど、ファンタジー世界の釣りはミニゲームでしょうよ。
そういうちょっとしたやりこみゲーとかって、意外と大切ですよ。
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