第456話 魔術工房で九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
歩きダイコンはハーブでした。
「のじゃ。高麗にんじんとか、そういう根菜系のアイテムは確かに多いのじゃ」
「……アイテムって」
◇ ◇ ◇ ◇
流石にこれ以上、歩きダイコンを増やす自信はなかった。
なので俺は女オークのおばちゃんに、もっとこう軽い感じの奴でと注文を付け――普通の薬草と、毒消し草、混乱治しの元になる根菜を頼んだのだった。
「はい、それじゃ、元気になった気がスール草と、保健室のニーオイ草と、クサ過ぎて逆に癖になる根の三つだね」
「すげぇアイテム名」
「のじゃ。本当にこれ効果のあるアイテムなのじゃ」
「そういう名前をしてるじゃないかい」
そうだろうか。
最初と最後はなんとなく分かるとして、真ん中の奴はなんというか、無理やり感がなきにしもあらずだぞ。しかも、保健室ってなんだよ。ここ、ファンタジーの世界だろ。
この世界のファンタジー感のがばがばっぷりは今に始まったことではないけれど、あんまりな薬草の名前にちょっと気がめいった。
まぁいい、話の本題はガーデニングにある。
この際、細かいことには目を瞑ろう。
「苗はまぁ四つもあれば十分だろう。薬草と毒消し草は成長するのが早いから注意しなよ。品質の良いのを作ろうと思ったら、適度に葉を間引いてやること」
「お、なんかまともなアドバイス」
「のじゃ。分かったのじゃ」
「混乱醒まし用のアイテムは水をやり過ぎると根腐りを起こすから注意しな。まぁ、言っても冒険者が副業で育てる様なモノだから、よっぽど才能ない限りは、放っておいても育つわよ。頑張りなさい」
ありがとうとオークのおばさんに頭を下げて後にする。
かくして、俺たちは異世界副業の苗を文字通り手に入れたのだった。
さて、まぁ、よっぽどのことがない限り腐らせないだろうと言っていたが。
「なのちゃんがいてくれればなんというか、大丈夫な気がするよな」
「のじゃぁ。なのちゃん、できる子なのじゃ。きっとこの苗から、ばんばんいっぱい薬草増やして、倍々ゲームでうはうは稼いでくれるのじゃ」
「まぁ、たとえ枯らしてしまっても、そんなたいした出費じゃないからまた買いに行けばいいしな。よっしゃ、んじゃまぁ、いっちょ気合れて薬草を作りますか」
なんかそういうゲーム、昔に流行ったよなとかそんなことを思い出す。
牧場〇語だとか、エ〇ーのアトリエだとか、ちょっと毛色の変わったRPG作品。
この世界もそんな感じなのかねとか思いながら、俺と加代はふらふらと自宅に向かって歩き出したのだった。
まぁ、冒険者が居る時点で、ちょっとエ〇ー寄りなのかね。
「のじゃ、せっかくだし、ちょっと街をぶらついてウィンドウショッピングでもしてくのじゃ」
「そうだな。またなんか、副業のネタが見つかるかもしれんし」
まぁ、先ほど言った通り、なのちゃんが居れば、たぶん薬草栽培はうまくいく。
俺たちがやろうとしているのは、勝利の約束されたお決まり展開であり、なんていうか、こう、もうちょっと冒険してもいいんじゃないかなって気もしないでもない。
ファンタジー的に。
せっかく異世界に来たのだ。檜の棒でモンスターを殴り倒す生活をしないまでも、せめて、カジノで全財産するような放蕩ぶりをして見せた方が――。
「のじゃ桜。ちょっとよからぬことを考えておるのではないか?」
「――あ、いえ、そんなわけないじゃないですか」
カジノとか思った途端に鋭い視線を向けられる。
流石は加代ちゃん。長く暮らして、俺のことを分かっていらっしゃる。
金が余るとギャンブルに走る俺の機先を制して、加代は釘を刺してきたのだった。
まぁ、そのなんだ。
一回くらいはスライムレースとか、そういうの見に行ってもいいんじゃないですかね。
ダメですかね。
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