第455話 牧場的な物語で九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
貧乏オキツネ小説なのにお金が余るというアイディンティティクライシスを発生させてしまった加代と桜。そうだ、これを元手にもっとお金を増やす商売をしようと、また業の深いことを彼らは言い出すのであった。
「しゃーないじゃん、根が貧乏性なんだから」
「のじゃぁ」
「なの!! けど、みんなでお花育てるの楽しみなの!!」
「きゅるくるるぅーん!!」
異世界転移先の相棒が、理解のある子どもと竜で本当によかったですね。
なお、大根は乾燥しておりコメントできない模様。
「……み、みず」
◇ ◇ ◇ ◇
「のじゃ。という訳で」
「街の花屋にやって来たのじゃ」
休日。
もうなんというか、向こうの世界では考えられないくらいに、ばっちりと連休を二日続けて取ることができた俺たちは、その一日目で街の花屋にやって来た。
なるほど異世界と言っても花をめでる文化はある。
花屋は店先にずらりと色々な花――向こうの世界では見たことない奴――を並べて、俺たちを待っていたのだった。
「いらっしゃいませー」
しかしながら出てきたのがちょっと変わっている。
大阪のおばちゃんを彷彿とさせる金色のパンチパーマ。そこに加えて緑の肌。分厚い胸板をしたオークが、ぬんと店の奥から顔を出したのだった。
うーん。唐突の異世界感。勘弁してフォックス。
いや、そりゃ異世界なんだから仕方ないんだけれど。
ぽんと加代の奴が頭と尻に狐要素を追加する。すると、あれまぁと、緑の女オークのおばちゃんは、その狂暴な顔つきに似合わない人懐っこい声をあげた。
「あらあら、狐の獣人さん。びっくりするわね。しかも耳を出し入れ自由なんて、珍しいわぁ不思議だわぁ」
「……いや、お宅も人のことを言えないくらいに不思議だけれど」
「のじゃ」
「なに言ってんだい。オーク族の花屋なんてそう珍しいもんじゃないだろう。花屋と造園はオークの種族芸ってね」
種族芸。
そんな言葉があるのか。
異世界は奥が深いなとおもいつつ、どうやらどこぞの歩きダイコンと違って、このオークは悪いモンスターではなさそうであった。
やれやれ、少しばかり肝が冷えたよ。
「なにはともあれいらっしゃい。見ない顔だね、冒険者かい?」
「冒険者が花とか買いに来ます?」
「それもそうだね。するとこの街に居ついた流れ者のカップルかい」
近からずも遠からずなのでなんとも言えない。
黙って俺と加代が顔を赤らめて頷くと、また、あれまぁとオークのおばちゃんが叫んだ。
割とノリが地元と変わらない感じなのが妙にこそばゆい。
「照れちゃってまぁ、そんな恥ずかしがらなくてもいじゃないの」
「のじゃぁ。まぁ、一応、建前上は同居人ということになっておるのじゃぁ」
「なるほどなるほどおくゆかしい感じだね。それで、駆け落ち先で落ち着いて、家に花でも飾る余裕ができたから買いに来たってところかい?」
「「そんなんじゃないです!!」のじゃ!!」
異世界来てまでそういう弄りとか卑怯だと思うんですよ。
いや、本当に。
勘弁してくださいとオークのおばちゃんに頭を下げると、はっはっはと、彼女は気持ちよく俺たちのことを笑い飛ばしたのだった。
「それで、いったい何をお求めで?」
「のじゃ。こう、育てれば売れる薬草的な草花の苗はないかのう?」
「ちょっと小金と時間と土地が余ってて。なんかガーデニング的なことでも始めようかなと、そんなことを思っているんですよ」
「あらやだそういうの花屋に言っちゃう。あんたねぇ、うちが生花扱う店だから、そういうのは言っていいけれど、間違っても薬屋とかでそういうこと言うんじゃないよ」
そして唐突に怒られる。
なんだかなぁ。見た目に反して随分気のいいオークである。
話が分かるというか、なんというか。
それじゃこれはどうかねと、さっそく苗の一つを見繕ってこちらに向ける女オーク。これはこれから暫く、少なくとも俺たちが再び異世界転移するまで、いろいろとお世話になりそうだなと、そんなことを思うのであった。
「この歩きダイコンはね、食べると魔力アップ、精力もアップするっていう、割と有名なハーブなんだけれど」
「「ハーブなの、アイツ!?」なのじゃ!?」
だから、不意打ちやめてフォックス。
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