第458話 畑を作ってで九尾なのじゃ

 そんなこんなで。

 苗と竿を手にして我が家に帰宅した俺と加代。


 流石に一日がかりの買い出しだったため、苗を植えるのは明日に持ち越し。俺と加代、そしてなのちゃんにドラコは、なのちゃんが作ってくれた草編みの布団に入ると、ぬくぬくと夜を越したのだった。


 風の音に揺れる大根の音が実にすがすがしい夜であった。


「いや、酷いわ桜やん!! ほんま、いい加減おろしてや、しかし!!」


「勝手に死んでリスポーンでもなんでもすりゃいいだろ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 翌朝。


「なの!! しっかり畑仕事するなの!! 立派な薬草畑をつくるのなの!!」


「きゅるくるくーん!!」


 やる気満々のナノちゃんとドラコ。どこから手に入れたのか、それとも自分で編んだのか、いかにもな藍色のオーバーホールを着たなのちゃんは、ぐっと握りこぶしを作ってはしゃいでいる。


 負けじと加代さん。

 彼女もオーバーホールを着て、なんとも牧歌的なオキツネに変身すると、やってやるのじゃと鋤を手にして意気込むのだった。


 さて、植物を育てる上でまず大切なのは何でしょうか。


 小学校で学級菜園をやった人なら分かるね。

 そう――畑を耕すことだよ。


 広い庭。流石に一番敷地面積が広い家でと注文しただけあって、畑を育てるスペースに余裕はあった。余裕はあったが、いかんせん、なのちゃんみたいな座敷草鞋が発生するような家である。それはもう、生えっぱなしの育ちっぱなし、見るも無残な退廃空虚の叢という感じの、ひどいあれっぷりであった。


「あー、こーらあきませんなー。こんな草がたんまり生えとる庭。一日がかりで雑草むしらないきませんわ。異世界スローライフも楽やありまへんなぁ、桜やん」


「そうだな。お前、草属性モンスターなんだから、葉っぱ〇ッターとか使えないの?」


「んんん? ポケモ〇ちゃんうで桜やん。堪忍してやー。権利関係煩いんやからしかし」


 ほれ、葉っぱ〇ッターと、歩きダイコンを逆さにして吊るしてみる。

 無理無理、葉っぱ動かんからと言う彼を余所に――。


「のじゃぁ!! 尻尾カッター!!」


「なの!! すごいなの!! お姉ちゃん、流石九尾さまなの!!」


「きゅーん!! きゅん、きゅおーん!!」


 加代さんはまるでキュ〇コンよろしく、すぱすぱと九つの尻尾を操って、草むらを一気に綺麗にしていくのであった。

 うぅん、流石加代さん、恐るべし、そんなこともできるとは。


「のじゃ!! 根っこが残ると厄介なのじゃ!! 鋤で耕したら、その後、ちゃんと根っこを鍬で掬ってやるのじゃ!!」


「そしてこの手慣れた感じ。農家経験ある奴かな、これ」


「頼もしい嫁さんだな、桜やん。お前にはもったいない系女子やん。どう出会ったん」


 ほっとけ。

 そう大根太郎に吐き捨てると、俺は加代から言われた通り、草の抜かれたところから鋤で耕し始めたのだった。


「はーい、ざっくざっく!!」


「おほー、桜やん!! ワイ、ワイが居るやないか!! そんな渾身の一撃で、鍬振り下ろすとか勘弁してや!! ちょっと、たんまたんま!!」


 うるさいこの腐れダイコン。

 畑の肥やしになるがいいわ。

 それでなくてもお前、この後半分に割って植えてみて、増殖しないか試そうかと、そういうことをかんがえているんだから。


 まったく、過ぎた嫁なんて言われなくても今更俺が一番よく知ってるよ。

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