第454話 休日花屋さんで九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
寒さに耐えて、暑さに耐えて。
歩きダイコン大根太郎は――立派なたくあんになりました。
「ならへん、助けてプリーズ!!」
◇ ◇ ◇ ◇
「しかしまぁ、確かに、金はあるだけある方が、困らないってのは考えものだな」
「のじゃぁ。向こうの世界ではかつかつの生活をしておったからのう。よい循環みたいなものを回すことができなかったのじゃ」
歩きダイコンはあの通りまともな奴ではない。
なので、あまり奴の意見は参考にしたくない。
だが、一考の余地くらいはある話だった。
というか――。
「割と暇なんだよな」
「のじゃ。向こうの世界で休出とかざらだったから、休みの日に何すればいいかわからないのじゃ。お金を浪費するのはためらわれるから、余ったお金を元に副業というのは、なんというか現実的なお話なのじゃ」
異世界に転移しても、身に沁みついてしまった貧乏思考は変わらない。
そう、浪費して浪費して――そうして上がってしまった生活レベルを下げるのは、意外と大変なのだ。それは、前の会社をクビになり、いろいろと苦労したからよく知っている。
なので必然的にこうなる。
「「贅沢は敵!!」なのじゃ!!」
金は使うモノではなく、貯めるモノ。
いざという時に備えてとっとくモノ。
そして、できれば増やすモノ。
ここに来て、完全に大根太郎の言葉に従うことになってしまうのが癪だが、みすみすと現状の生活に満足するという選択肢は、俺達にはないのであった。
「のじゃ、どうするのじゃ、桜?」
「うーん、やっぱり、すぐに思いつくのは、大根太郎の沢庵量産化計画だよな。元手ゼロではじめられるし」
「おっほ、意外に商売上手ね桜やん。けど、ワイもそんなポンポンポンポンリスポーンできる訳でもないから、ぶっちゃけ期待せんといて欲しいねん」
使えない大根だなぁ。
無限増殖できないのかよ。お前、不死身だけが取り柄みたいな所あるじゃん。
まぁ、こんなゲテモノ大根。売りつけたらクレームが山のように来そうだから、とてもじゃないけどできないけれど。
うぅん、いい副業ないかなぁと、頭を捻らせる俺と加代。
そんな俺たちに向かって。
「なの。それなら、薬草屋さんするのなの。薬草いっぱい育てて、お店におろせばいいの。なのもドラコも植物のお世話は得意だから、任せてほしいの」
「きゅるる」
なるほど、と、俺と加代が手を叩く。
どこぞのダイコンと違って、流石はなのちゃんいいことをいう。
なんてファンシーでポップでスローでライフな、今どきの異世界転移っぽいアイデア。
まぁ、そりゃ置いといて。
ここは冒険者たちで溢れている異世界。
そんな異世界で、回復アイテムに需要がない訳がない。
なのちゃんの言う通り、道具屋におろせばきっといい金になるだろう。加えて、この家は無駄に広い。いろいろと育てるのにはもってこいだ。
「いいじゃん!! さすがなのちゃん!! かしこい!!」
「のじゃのじゃ、お花を育てるのってなんだか絵になって、とってもいい感じのアイデアなのじゃ!! それでいくのじゃ!!」
「なの!! おにいちゃんたちのお役にたてて、うれしいなの!!」
はしゃぐなのちゃん。はしゃぐ俺たち。
そんな俺たちの端で荒縄に縛られた大根が揺れる。
「くくく、はたしてそんなにうまく、ことが行くと思うのかな。沢庵一つ、満足に作れないお前たちに、花の栽培などできると思ったか――」
「揺らすと余計に早く乾燥するかな」
「やめて!! 桜やん!! ほんまもう、ちょっとした小粋なジョークやないの!! あかん、股割けスケベ大根の悲哀!! 割れた所にお縄が食い込むのぉおお!!」
「のじゃぁ!! なのちゃん、見てはいけませんなのじゃ!!」
慌ててなのちゃんの瞳を隠す加代。
それを確認すると、俺はおもいっきり、腐れダイコンを上下左右三百六十度振り回してやるのだった。
なーにが、そんなにうまく、ことが行くと思うのかな、だ。
こっちがせっかくやる気になったってのに、変な水差すなってーの。
まずはお前を畑に植えて、増殖できるか試してやろうか。まったく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます