第448話 家族が増えるよで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 ほのぼのスローライフ系ファンタジー小説にいきなりシフトする。

 そう、だってこの小説は、ほのぼのお仕事九尾になる小説。

 異世界に言っても、なんかそういう感じでやらないと、ダメな感じがするから。


「という割には、仕事をクビになっていないような」


「のじゃ、長期化に伴う迷走は、少しくらい許してやるのじゃ」


 それ、加代さんが言っちゃいますかね。

 という訳で、ちょっと、迷走し気味ですが、どうかご容赦ください。


◇ ◇ ◇ ◇


「一緒に」


「暮らす」


 そうするの、そうするのと、座敷草鞋ざしきわらじはポンポンと手を叩きなが飛び上がってはしゃぐ。なんというか、まさしく童女という感じで、一気に毒気が抜かれてしまった。

 いや、もともと、結構毒気を抜かれてはいたのだけれど。


 いやしかし、そうか、一緒に暮らすか。

 確かに、それもありかもしれない。


「なの!! こんな広いお家なら、一緒に暮らしていても問題ないの!! お兄さんたちは、なんだかとってもいい人っぽいし、どこか人間じゃない感じもするから、きっとモンスターの私とも上手くやれると思うの!!」


「……のじゃ」


「見抜かれてるぞ九尾さま。こんな幼女にモロバレって、九尾的にどうなん?」


「むー、まぁ、溢れ出るモフリティは、異世界に行っても隠せないというか、まさかの加代さん、異世界でも余裕でチートなしでチャームしちゃうといいますか、なのじゃ」


 ポンと加代が耳と尻尾を生やして見せる。

 すると座敷草鞋ざしきわらじの少女。ぱぁとその顔を明るくして、口の前で手を合わせた。


「九尾なの!! 和風モンスターの九尾さんなの!! のじゃのじゃ行ってたのは、そのせいなのじゃの!!」


「口調移ってるのじゃ」


「すごいの!! 九尾さんはじめて会うの!! すごく強いモンスターなの!! なのにとっても優しいの!! きっといい九尾さんなの!!」


 ほう、こっちの世界にも九尾はいるのか。

 しかも座敷草鞋ざしきわらじちゃんの話を聞く限り、悪役ポジションなのね。

 どっかの九尾とは名ばかりのへっぽこ妖怪と違って、ちゃんとモンスターしてるとはえらいこってすな。


 見るからに仲間と分かる相手と知って安心したのか、座敷草鞋ざしきわらじが加代にすり寄る。

 甘えるように頬ずりをする彼女の姿には、なんだかもう、保護欲以外沸いてこなかった。はぁ、こりゃあれですな、ほのぼのファンタジー路線で、この異世界転移は決定ですな。へっぽこ大根が出て来た時から、そんな匂いはしてましたが。


座敷草鞋ざしきわらしちゃん!! ワシ、ワシも仲間やで!! ほら、歩きダイコン!!」


「……なんか、ダイコンさんは、ダイコンっていうより、違うコンっぽいの」


「そんなひどい!!」


 鋭い。

 いやぁ、意外に鋭いな、このお嬢ちゃん。

 そうです、そのどダイコンは、ダイコンの前にロリコンなんです。

 だからすりすりしたりしちゃいけません。


 大きくなったりしたら大変だからね。

 ならんだろうけどさ。


「なんでや、ワイ、モンスターやないか!! モンスター娘といちゃいちゃするのも許されへんのか!! おかしい、こんなんおかしいで、しかし!!」


「お前の発言の方がぶっちぎりでおかしいからな、なんも言えんわ」


「酷いわ桜氏!! もっとオブラート包んで!! 言葉を!!」


 なんにしても。

 このダイコンを見捨てることもできないし、座敷草鞋ざしきわらじちゃん達も見捨てることも難しそうだ。情にほだされてややっこしいことになるのはいつものことだが。


「……だっはー。仕方ない。ここはもう腹を括るか」


「のじゃ!! 桜!!」


「追い出しちまえば討伐されるし、俺たちが住まなきゃ、他の冒険者に駆除されるかもしれない。ここはギブアンドテイクだ。一つ、割り切っていこう」


 という訳で、俺と加代さんは、座敷草鞋ざしきわらじちゃんと同居することにしたのだった。


「やったの、家族が増えたの!!」


「きゅるるーん!!」


「あ、それ、危ないネタやで、座敷草鞋ざしきわらじ――ちゃぶっ!!」


 いらんことを言おうとした歩きダイコンを、俺はこん棒で叩いた。

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