第436話 異世界無頼旅で九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
異世界に転移によるチートもなくたいした装備もなく放り出された九尾と人間。
はたして二人の明日はどっちだ。
「さらっと言ってくれるなおい!?」
「クビになる以前の問題なのじゃ!!」
どっちだ。
◇ ◇ ◇ ◇
日が暮れる前に何とか街に着いた。
ぎりぎりなんとか、村の門が閉まる前に滑り込んでことなきを得た。
あれまと驚くオークの門番に、うわぁ本当に異世界だとやっている暇もない。そんなギリギリの滑り込みであった。
「のじゃぁ、危なかったのじゃ。あのまま野宿をしていたら、きっとデスさまに遭遇して、一日目で視界が赤くなるところだったのじゃ」
「デスさまって。そういう異世界じゃないだろこれ。あきらかに中世ヨーロッパ風の異世界だろこれ。遭遇するなら――なんだろ? ドラゴン?」
「エル〇ースク〇ールはやってないからわかんないのじゃ」
「いやけど、たぶんそんな大した感じのファンタジーじゃないぜ。自由度は高そうだけど、作品の自由度と適当感をはき違えた作品の匂いがぷんぷんするぜ」
門番をオークが自然にやっている辺りが、特に。
なんにしても、なんとか日が暮れる前に街にたどり着くことができてよかった。
はぁと、俺と加代が自然にため息を吐く。
やっぱりあの後も、気がつくたびに空に女神の姿を求めてみたが、まったく返事は帰って来なかった。人を転移させておいてなんとも迷惑な女神である。
あるいは、他のことで忙しいのかもしれないが――なんにしても、ろくな装備も与えずに、ぽいすと異世界に放り出すとは不届き千番。
勘弁して欲しかった。
異世界転移させるなら、ちゃんと最後まで面倒みてくれ。
「のじゃ。しかしあれじゃのう。こう、異世界転移系で、何も持たずに放り出されるとか、逆になんだかそれっぽい感じじゃのう」
「まぁ、本格っぽいと言えばそうだけれども。単にこれはおざなりなだけだろ。なんていうか行き当たりばったりで、適当に転移させてみましたみたいな」
「のじゃのじゃ。重箱の隅をつつくようなことを言ってもはじまらんのじゃ。とりあえず、無事に街についたことだし、まずは情報収集からはじめてみるのじゃ」
流石は職を転々として、適応能力だけはずば抜けて高いオキツネ。
この絶望的な状況でもそんなことをひょいと言ってみせる胆力に、痺れるぅ、憧れるぅ、頼りになるぅ。
とりあえず、普段なにかと駄女狐となじっている彼女についていけば、この異世界転生編も大丈夫だろう。そんなことを思いながら、俺たちは街を歩き始めた――。
「まずは装備を整えよう。道具屋に行って、装備品をゲットだ」
「のじゃ!! その意気なのじゃ!! お、なんだかそれっぽい建物が――」
見えてきたという言葉が出て来ない。
加代さんが声を詰まらせたその原因については、なんというかもう、一目見るだけで察することができた。
そう――。
「家に!!」
「エルフ耳!!」
家にエルフ耳が生えていたのである。
何故か、エルフの耳が、びょーんと左右に開いていたのである。
更に言うと、エルフ装備専門店という、看板まで掲げられているのである。
あ、あかんこれ、世界観が読者の希望を振り切ってる感じの異世界や。
そんなことを思って、かぶりを振ると。
「誰がどエルフじゃ、このすっとこどっこいどもー!!」
爆発と共に、エルフ専門店から、二つの影が飛び出してきた。
全裸のおっさんにいい歳した青年。二人は何故か、やりきったという感じの顔をして、爆炎魔法に煽られて宙を舞うと、それから手慣れた感じで着地して、ぐっと拳を突き合わせたのだった。
うぅん、この――。
「……絶妙な置いてきぼり感」
「……なんだかとんでもない異世界に転移してきてしまったのじゃ」
こんな世界で上手くやっていけるのか。
本当に、チート能力なしで、物語を進行できるのか。
そもそも俺たちはどうすれば元の世界に戻れるのか。
そんな疑問よりまずなにより。
「まともな職に就こう」
俺たちは冒険者プレイを諦めて、商人プレイを選択したのだった。
うん、本当、人には人のプレイの仕方があるよ。
この世界はちょっと、無理だよ。
流石だななんだか知らんけどさすがだなって感じで爆発オチが日常になっている異世界に違いないよ。ぶっちぎりで頭がどうかしている異世界に違いないよ。
俺たちはそう判断して、そっとわくわくアドベンチャーの幕を閉じた。
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