第435話 何も持たずに異世界転移で九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 おっす!! オラ桜!!

 っはー、日常系ゆるふわ大人のラブコメと思わせて、まさかの異世界転移とか聞いてねえぞ!! しかも次々と現れるつぇー奴ら!! 始まる天下一かもしれない武闘会!!

 緑色の男に、ターバンの男に、頭から触手の生えている男!! 

 流石ファンタジー!! 変な奴しかいねー!! ちくしょう、オラ、わくわくしてきたぞ!!


 という訳で、次回、チェリーボール!!

 やっちゃいけないと言われたら、やっちゃう奴ってマジなんなの!!

 来週も、ごめんねごめんね!!


「いや、今週から始めるんだよ!!」


「そして絶対やるなって言った奴なのじゃ!! あかんのじゃ!!」


☆鳥山〇先生ごめんなさーい!!


「「そうやって謝れば、全部許されると思ったら大間違いだぞ」なのじゃ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「たはー。マジで異世界転移しちゃったよ。どうなっとんのこれ」


「のじゃぁ。まぁ、いろんな世界線があるのだから、異世界があってもおかしくはないとは思うけれど。まさか本当に転移する展開になるとは」


「しかもスキル貰ってないし」


「のじゃ、ほんとそれなのじゃ」


「……そして、いきなり荒野だし」


「荒野から始まる異世界転移なんて、聞いたことがないのじゃ。自由度高すぎるにしても不親切極まりないのじゃ。勘弁して欲しいのじゃ」


 勘弁して欲しいのは、巻き込まれで異世界転移したこっちの方だよ。

 とほほ、どうしてこうなるの。


 四方八方見渡しても、荒野、荒野に、また荒野。

 空は青々として、雲一つなく太陽は幸いにして一つ。月もうっすらと浮かんでいて、なんというか元居た世界と雰囲気は限りなく近い。


 けれどもまったく安心感のないこの感じ。

 俺は正直、焦りを覚えた。


 おい、異世界転移でテコ入れするにしても、もうちょっと丁寧にやれよ。

 なんだこの投げやり感。


「おーい、女神!! 駄女神!! 居るんだろう、でてこい!!」


「のじゃ!! 駄女神!! 出てくるのじゃ!! 駄女神!!」


 あんまり詳しい訳じゃないけれど、まぁ、一応なろうで小説書いてた俺である。

 こういう投げ出され系のWEB小説は、女神がなんやかんやで世話焼いてくれるのがお決まりだ。チート能力も与えられずに、自分の力で生きて行けなんて、そんなサバイバル異世界転移、今どき流行りませんっての。


 しかし――。


「返事が」


「ない」


 ノリのいい女神なら、ここでただの屍のようだと返してくるはずなのに、まったく反応がない。それこそ、先週はこれからレギュラーで活躍するぞい、ってくらいに煩かった女神が途端に静かになったのに、俺たちは言葉を失った。


 あれか、眼鏡をかけないと、見えない聞こえない感じの女神なのか。


「ったく、とろくさいことしてないで出てこいよ駄女神!!」


「のじゃ!! 物語のお約束なのじゃ!! なんでここで出て来ないのじゃ!!」


「もったいつけてんじゃねーよ!! 俺ら、ノースキル、ノーチートで異世界無双できるほど、バイタリティ溢れた転移者じゃねえよ!!」


「特典!! 転移特典も地図もなしに、どうしろというのじゃ!!」


 しかし。

 どれだけ叫んでみても。

 いつまで待ってみても。


 その後女神が俺たちに返事をすることはなかった。


「……のじゃぁ。もしかして、これ」


「……異世界無頼旅の始まりなのじゃぁ」


 あんなに明るかった外の景色は、今はもうちょっぴり橙色に染まっている。

 この世界でどれくらい日が沈むのが早いのかは分からないけれど――とりあえず、初日野宿というのだけは、勘弁して欲しかった。


 やれやれ、しょっぱなからとんだ異世界転移である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る