第390話 狐要素で九尾なのじゃ
属性について本気出して考えてみた。
いや、うん、ここ最近加代の奴といろいろと生活してて思ったんだ。
なんというか、そもそも加代の奴はオキツネで、ポンコツで、いろんなお仕事をクビになって、それでとほほやっぱり加代ちゃん、何をやってもお九尾ね、と、そういうオチになるべきだと思うのよ。
というか、そういうノリだったと思うのよ。
なのにここ最近と来たら。
九尾関係ありますかという感じの、日常あるあるネタばかり。
そうぶっちゃけ――。
「お前、九尾である必要性、そもそもある訳?」
「……のじゃぁっ!? アイディンティティクライシスなショック発言!! ちょっと、いきなりそういうのはやめて欲しいのじゃ!!」
と、申し訳程度に、赤いき〇ねを食べていた加代さんは、箸を置いて怒った。
それ、そう、それだよ――。
そのリアクションからしてもうダメだよ。
お九尾ヒロインとして失格だよ。
ダメよダメよだよ。
「加代さん、昔は怒る時、尻尾と耳を出してましたよね?」
「のじゃ!? それはまぁ、確かにその、そういう時期もあったが……」
「オキツネリアクションしてましたよね? なんで最近しないんです?」
「……いや、なんでと言われましても」
俺が指摘するなり、急いでぽんと尻尾と九尾を出現させる駄女狐。
九尾娘というアイディンティティが、この娘にとって唯一の救いだというのに、いったい何をのんきしているのだろう。
世はオキツネ娘戦国時代。
漫画からアニメ、バーチューバーまで、いろんなオキツネ娘で溢れている。
なのに、この、駄女狐と来たら。
九尾であるアドバンテージも忘れ、狐であるという自分の特徴も忘れ。
日々、あるある同棲ネタばかりを繰り広げる。
もう一度言おう。
加代さん、貴方、九尾である必要あります?
「昔はさ、獣キャラを前面に押し出して、ほれ、ちょっと際どいネタとかやってたじゃないのよ」
「あ、改稿前の、割とワイルドだったころの
「あの頃の加代さんのワイルドさは、狐っぽさはどこに行ったんだよ」
「長期化に伴いキャラがボケてくるのは割とよくあることなのじゃ!! 氷のようなヒロインがいつの間にか気がついたポンコツ娘になってたりとか、最近の流行りなのじゃ!!」
「お前は最初に出てきた時からポンコツだっただろうが!!」
のじゃぁ、と、加代が泣く。
ポンコツ狐に振り回される三十路サラリーマンの日常。
これが当初のコンセプトだったはずだ。なのに気がついたら、もう、日がな一日、いちゃいちゃいちゃいちゃ。当初のお仕事あるあるネタさえ最近は薄くなってきた感がある。
こんなんでいいのか。
こんなんで、現代ドラマ枠で連載していていいのか。
いや、問題はそこではない。
問題なのは――。
「加代さんや、俺は加代さんから九尾娘というアイディンティティがなくなるのを、とても恐れているんだ」
「のじゃぁ……。それはどうして?」
「キャラクター属性の喪失!! それ即ち、作品の魅力の喪失!! 妹萌え漫画のキャラが、急に妹属性じゃなくなったとしたらファンはいったいどう思う!!」
「のじゃ!! それはなんか、やってはいけないことなのじゃ!!」
「逆に青春ラブコメがいきなり血みどろの昼ドラ展開になったらどう思う!!」
「のじゃ!! 最終回で船の映像が三十分流れるのじゃ!!」
「ヤシガニ食うことになったらどうなると思う!!」
「のじゃぁ!! 作画崩壊なのじゃぁ!!」
つまりだ。
属性のツボをしっかり押さえておかないと、読者はついてきてくれない。
そして何より、一緒に居る俺が満足できないんだよ。
今、あらためてよく考えてみるんだ。
オキツネの加代さんと、オキツネじゃない加代さん。
オキツネの加代さんの方が、より、俺にとっては愛おしく――。
愛おしく――。
「……あれ?」
「のじゃ?」
「なんか別に、狐じゃなくても、なんというか、問題ないようなそんな感じが」
「のじゃぁ!? ちょっと待つのじゃ、最初に、狐でなくてはいかんと言い出したのは、お主であろう桜よ!?」
いや、そうなんだけれども。
そう思ったんだけれども。
なんだろう、あらためてこう、狐要素を取り除いて、加代という存在を考えてみても――。
うん、普通に愛せる自信がある。
なんていうか、あんまりに長く一緒に居すぎたものだから。狐だとか、ポンコツだとか、せこいだとか、そういうのあんまり気にならなくなっている自分がいる。
え、これ、大丈夫なの。
ラブコメ的に大丈夫なの。
いや、今はカテゴリ、現代ドラマだけど。
そんなただダダ甘いだけの小説で需要あるの。
「……同棲期間が長すぎたんだ!!」
「のじゃ、幼馴染と同じで、同棲し過ぎて、もう何が好きで一緒に居るようになったのか、分からなくなっちゃったパターンなのじゃね」
怖いのは幼馴染と違って、そのまま子供ができてゴールインとか、そういう可能性がある所なんだ――んがんぐ。
なんにしても。
「……まぁ、俺がいいなら、それでいいか」
「……のじゃ、ご飯の続き、してもよいかのう」
最初はきっちりと属性に沿って話を進める必要はあるが、ある程度話が進んでしまうと――もうそういうのどうでもよくなってくるもんだなぁ。
はふはふもぐもぐとあぶりゃーげをもしゃる加代を見ながら、俺はそんなことを思うのであった。
まぁ、油揚げ中毒だけは継続しているから、よしとしておくか。
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