第391話 汁なし担々麵で九尾なのじゃ
「へいらっしゃい!! 何名様なのじゃぁ!!」
「おわぁーっ!! 久しぶりの昼ご飯ネタだよ!! 勘弁してくれフォックス!!」
出張先でのお昼休み。
商談を終えて本社に戻ろうかなというところで、ちょうどお昼の時間だったので、昼飯食べてきますと課長に連絡を入れて市街に出てきた。
駅前からそう離れていない商店街をうろついていると、おぉ、今流行りの汁なし担々麵があるじゃないかと暖簾をくぐって――。
今、ここである。
加代さんほんとこういう神出鬼没で出てくるの勘弁してください。
俺これから、会社に戻ってまだ作業しなくちゃならんのだから。さっきまさしく、仕事を新しく作ってきたところなんだから。
もうなんか見えてしまったオチに、はぁと自然に溜息が口を吐く俺。
そんな俺を余所に、加代はにこにことした顔のまま、のじゃのじゃとカウンターの中で営業スマイルを向けるのだった。
「ささっ、食券買って空いてる席にどうぞなのじゃ」
「あ、ここ食券制なのね」
「ラーメン屋なのじゃから当たり前なのじゃ」
そうね。都会のラーメン屋さんは、食券タイプが最近は主流よね。
昔ながらに注文取りに来るところは少なくなったよね。
なんだろう、オーダーとるコストより、料理造るコストの方を優先したのかね。
なんにしても、それなら間違いないだろう。
俺は食券機の前に移動すると、そこに書かれているメニューを確認した。
ふむ。
「汁なし担々麵、ライスセット、チャーハンセット、餃子、照り焼き丼セット。おいちょっと待て、まったく今回はボケ要素ないじゃないか」
「のじゃ。ボケ要素とはなんなのじゃ。普通なのじゃ」
「いや、散々ファストフード店ネタで、ボケかましてきておいて、それはないだろ」
いつもいつも、きつねうどん食わせておいて、こんな時だけなんもなしとか。
こっちもこいつの顔を見た時から、あ、今日はそういうオチかと覚悟していたのに、この普通のメニューはなんなんだよ。
いや、そもそも、この店に入った時点から、今日はこのオチかなとか思ってたよ。
ファストフードきつねうどんオチかなと思ってたよ。
なのに普通のメニューとか。
「のじゃ? きつねうどん食べたいのじゃ? 隣のうどん屋に行くのじゃ?」
「だったらなんでそっちで働かないのじゃ。もういいよ、なんだよ、普通に汁なし担々麵チャーハンセットにするよ。要らない心配して損したよ」
千円札を投入して、俺は食券を手に取る。
そして、それをカウンターに置くと、憮然とした顔でその場に頬杖をついた。
困ったお客さんじゃのうとぶつくさ言いながらも、食券を手に取る加代。
すぐに彼女はそれを、奥に居るスタッフに向かって読み上げた。
「汁なし、イタ飯一丁なのじゃ!!」
「あいよぉ!!」
威勢のいい声が上がってくる。
まぁ、カウンターの接客嬢はともかくとして、中で働いている人たちはそこそこまともな人たちのようだ。これならば、まぁ、心配しなくてもまともな料理が出てくることだろう。
というか、こいつが調理しないのが、せめてもの救いだな。
なんと言っても、何を調理させてもきつねうどんにしちまう達人だからな、加代さんは。
ちゃっちゃと向こうで麺を切る音が聞こえてくる。また、じゃーんじゃーんと、中華鍋を回して、飯を炒める音もしてくる。
いいぞいいぞ、実にいい調理風景だぞ。
これなら心配しなくても、ちゃんとしたものが出て来るんじゃないのか。
期待を胸に調理現場を見つめる。
出来上がったのだろう。はい、汁なし一丁、と、大将らしい人物が声を上げた。
すかさずそれを取りに行ったうちの駄女狐。
その帰ってくる道すがら。
いきなり、店の壁がオープンセサミ。
隣のうどん屋と直結。
ターンテーブルの上に載せられた汁なし担々麵。
回転したかと思えば、それと入れ替わりに――。
「へいお待ちどうなのじゃ!! 汁なしきつねうどん一丁!!」
「担々麵だよ!!」
汁のない、油揚げだけが乗った、釜揚げうどんがでてきたのだった。
もう勘弁してフォックス。
ちなみに、チャーハンは同じ要領で、おいなりさんにチェンジさせられました。
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