第364話 三食かき氷で九尾なのじゃ

 かき氷。

 現代の夏の風物詩と言えば、やはりこれだろう。


 いや、セミとか花火とか夕立とか、ほかにもいろいろあるけれど。

 やっぱりこいつが一番しっくりとくる気がする。


 そんでもって、どうしてこんなことを急に俺が言い出したかといえば、それは当然貧乏二人同居暮らしという理由からであった――。


「のじゃ、昨今の我が家の財政事情を鑑みて、これ以上アイスを買うのはよくないと思うのじゃ」


「そんな!! クーラーガンガンに効いたアパートで、アイスを食うという背徳的な楽しみをやめよと申すのか加代さん!!」


「仕方ないのじゃ!! だって、これ、今月のアイスの出費見てみるのじゃ!! 週に三箱アイス消費するって――どう考えてもペースがおかしいのじゃ!!」


「そんなことないだろ。朝アイス、帰宅アイスに寝る前アイス。三食と同じくらいに、アイス摂取は生活に欠かすことのできない重要な行為だ」


「欠かすことできるのじゃ!! どう考えても食べすぎなのじゃ!!」


 真顔で狐に返された。

 三食あぶりゃーげ強要してくる狐娘に、どう考えても食べすぎじゃとキレ気味に言われてしまった。


 えー、なんでだよ。

 朝起きて、暑くてしかたなくてアイス食うだろ。

 帰宅して、会社の疲れからアイス食うだろ。

 夜寝る前に、今日も一日頑張ったご褒美にアイス食うだろ。


 一日三食アイス食うこと、そんなにおかしなことじゃないように思うけど。

 ダメなんじゃろうか――。


「とにかく、この調子でバカスカアイスを食べておったら、家計の方が先に蕩けてしまうわ!!」


「アイスだけにね!!」


「たわけ!! 巧いこと言ったと褒めて欲しい訳じゃないのじゃ!! そういう訳で、アイス禁止令、しばらくアイスは買わないことにするのじゃ!!」


「そんな!! それじゃ俺はこれからいったい、毎日何を楽しみに生きていけばいいというんだ……!!」


 その辺りはちゃんと考えてあるのじゃ。

 そう言って加代が取り出してきたものそれこそ――実家の倉庫にしまってあった、かき氷機であった。


 というわけで、夏はかき氷な訳である。


◇ ◇ ◇ ◇


「んー、まぁ、俺はアイスはラクト派だし、宇治金時とかも好きだから、全然かき氷でも大丈夫なんだけれどさ」


「のじゃ。それはよかったのじゃ」


「朝からじょりじょり氷を削ってかき氷つくるっていうのは――やっぱなんというか、抵抗感があるといいますか」


「……というか、朝アイスの時点でどうかしていると思うのじゃ」


 朝。

 味噌汁を作り、卵焼きを焼き、ごはんを食べる。

 そしてその口で――かき氷を作って食べる。


 贅沢というより、明らかに何か間違っている感じのこのやり取りに、いくらアイス好きとは言っても戸惑いを覚えない訳にはいかないだろう。


 そこまでしてアイス食いたいのか。

 いまさらながら加代が、異常と俺のことを言った理由が分かった気がした。


「確かに、そこまでして食うべきものなのかと、思わないでもないなぁ」


「のじゃ。やっと気づいてくれたのじゃ」


「……けど、朝からおいなりさん食う方が、やっぱりどうかしてると思うのじゃ」


「あぶりゃーげは主食!! かき氷はデザート!!」


 いや、そんな自信満々に言われましても。

 困りますフォックス。


 とほほと肩を落としながら、俺はいちごシロップのたんまりとかかったかき氷に、さくりとスプーンを突き入れるのだった。


「……ちなみに加代さん、練乳とか、餡子とか、そういうオプションは」


「なしなのじゃ。逆に原価が高くなるであろう」


「……むぅ」


わらわもプレーンおいなりさん、しかも半額シールで我慢しておるのじゃぞ。であれば、お主も、もそっと我慢せんか」


「そう返されるとぐぅの音も――いや、そもそもおいなりさん毎日食う方がどうかしてるっての」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る