第334話 名古屋土産で九尾なのじゃ
「ただいまだなもーなのじゃ!!」
「……アイディンティティクライシス!! 加代さん、アイディンティティクライシスの危機よ!! 言葉尻には気をつけて頂戴!!」
のじゃぁと加代が目を瞬かさせる。
諸手を挙げてアパートに帰って来た彼女。うかれている狐娘をすぐに正座させると、俺は彼女に説教を開始した。
「そういうのいけないと思うの。せっかくここまで培ってきた狐娘キャラクターな訳じゃない、加代ちゃんって。それなのに、突然だなもーとか、取ってつけたように名古屋弁喋り出すとか……読者への裏切りだとアタシ思う訳よ」
「のじゃぁ、桜よ、お主のオネエ言葉の方が、よっぽど裏切りだと思うのじゃ」
「おだまり!! アタシはいいのよ!! ちょいちょいオカマ言葉はやってるから!! けど加代ちゃん!! アンタはこの作品のヒロインでしょうが!!」
しっかりなさい。
幾ら、ちょろっと書いた台詞系小説が、爆発的に伸びたからって、アンタはここ数年カクヨムでこの作者の代表作としてやってきた小説の主人公じゃないの。
変な属性付け足して延命措置を施そうなんて。
そんな野暮ったいことするもんじゃない。
貴方はそのままで最高の――クレイジィノジャ九尾なんだから。
腐っちゃいけない。
どんな時でも真っすぐに生きていれば、見ている人は見てくれているものよ。
それでいいじゃないのよ。アタシたちはそんな人たちのために、精一杯頑張ればそれで充分なの。
「どんな時にも胸に誇りを持って生きるの!! 強く生きるのよ加代ちゃん!!」
「のじゃぁ、名古屋出張から帰って来ただけでこの扱い。勘弁して欲しいのじゃ」
「馬鹿!! 加代ちゃんの馬鹿!! いくじなし!! オキツネ娘ブームなのに、自分にお声がかからないからって拗ねることないじゃない――もう知らない!!」
「……とりあえず、名古屋土産を買って来たのじゃ」
「それを先に言えよ。お前、オカマネタで引っ張るのは結構しんどかったですよ」
しんどかったですよ。
そういう、分かりやすいネタを用意してるならいいんだよ。
先に言ってくれ。やれやれだ。
この作品も長くなってきて、メタな発言も普通に出て来るし、ネタも枯渇してくるしで大変なんだ。毎回、それっぽいネタを用意する身にもなってくれよな。
しかし、お土産があるなら大丈夫。
地域お土産ネタは鉄板だ――。
なまじ。
「お約束の地、名古屋!! もうね、これは分かりましたよ!! うん、俺でも分かる!! オソマだ!! 赤オソマ美味しいってなるんでしょ!!」
「なんなのじゃ赤オソマ。お主の方がアイディンティティクライシスなのじゃ」
「いいからさっさと出せよ名古屋土産!! もう分かってるんだよ!!」
分かったのじゃと加代さんがごそりごそりとバックの中を漁る。
そうして彼女が取り出したのはそう――。
茶色い茶色い四角い形をした。
「青〇のういろうなのじゃ!!」
「白!! 黒!! 抹茶!! あがり!! コーヒー!! 宇治!! 俺ァ!!」
悔しかったから言ってしまった。
なんで。
名古屋土産なんで。
味噌カツも、味噌煮込みうどんも、赤味噌も、あるでよ。
なんでそこで青〇のういろう。
確かに名古屋名物だけれども――ローカル過ぎて伝わらないよ。
絶妙に伝わらないよ、この名古屋名物感。
流石は加代ちゃん、選ぶ土産もポンコツである。
「東海圏では青〇のういろうは有名なのじゃ。CMもバンバン打ってるのじゃ。名古屋に寄った時にはお土産に是非買いたい一品なのじゃ」
「そうだけどぉ、そうなんだけどぉ……」
せめて、つボイノリ〇の歌に歌われているアイテムにしておこうよ。
そんなことを思いながら、俺は自分の名前と同じ味のういろうを手に取った。
「のじゃぁ、マウンテ〇のスパゲティテイクアウトした方がよかったのじゃ?」
「テイクアウトできないだろあそこ。というかやっぱりそういうロケだったのね」
「お口直しにはういろうということなのじゃ」
そりゃ間違いにゃーでよ。
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