第330話 オキツネプライドで九尾なのじゃ
「やってられるかなのじゃーっ!!」
「おわーっ!? 加代さん、冒頭からブチキレとかキャラ崩壊してますよ!!」
帰って来るなり即九尾。
九つの尾っぽを天に向かって逆立てて、同居狐は息巻いた。
ふんすふんすと鳴る鼻が荒々しい。
いつもは何があってもにっこにっこ。あるいは、のじゃぁとうなだれている加代さんが、いったいこれはどうしたことだろうか。
思わず料理を作る手を止めて俺は彼女の方を向いた。
「あ、今日は厚揚げのネギからしみそ炒めです。あと、手羽先焼いときました」
「サンキュー桜、愛してるのじゃ!!」
「……んで、どうしたの加代さん。どうせまたクビになったのは分かるんだけど、なんでそんなに怒髪天なのよ?」
聞いてくれるか桜よ。
そう言いながら、加代は冷蔵庫から自然な流れでよく冷えた豆乳を取り出した。
次に冷蔵庫の上に置いてあるカルーアをむずりと掴む。
カルーアの豆乳割。
最近ハマってるんだそうな。
加代曰く、書籍化されるにはまだまだ女子力がどうのこうのらしい。
狐娘の考えることはよく分からんが、安いウィスキーじゃいかんのかね。
「のじゃ。スーパーの食品売り場で
「あー、そりゃー、まぁー、お前のことだからつまみ食いしたり、あぶりゃげまみれにしたんだろ。そりゃお前が悪いよ。うん、十割お前が悪い」
「のじゃぁ!! それはまぁ、それとして!! 問題はそのあとなのじゃ!!」
いや、よくないだろう。
真面目に仕事しなはれ。
クビになること前提で話を進めるってどういうことよ君。やる気あるのかね。上司でなくてもそんな小言を口にしたくなるわ。
まぁ、加代さんだから仕方ないけど。
フライパンから皿へと厚揚げの炒め物を移し、踵を返したついでにオーブントースターで焼き色を付けていた手羽先を取り出す。
いい感じに匂い立つブラックペッパーと塩の香り。
俺も料理が板についてきたもんだ。
俺はプレートに二人分のおかずとご飯をよそう。そんな甲斐甲斐しい同居人を他所に、相変わらず九本の尻尾を全て怒髪天突かせている加代さん。彼女は、カルーア豆乳を一息に飲み干すと、次の一杯を据えた目で造りはじめた。
「
「
「のじゃぁ、加代さんこんなにフレンドリーなオキツネ娘さんなのじゃ!! なのに、なのにぃ、そんな風に言われるなんて心外なのじゃ!!」
やってられるかなのじゃぁ。
そんな叫びとは裏腹、加代は造ったカクテルを優しく机に置く。
グラスの底がカタリと小さな音を立てた。
うぅん、まぁ、なんだ。
女としての魅力がどうこうみたいな話ね。
ようはプライドの問題。
フレンドリーといえば、確かに親しみやすい雰囲気のあるうちの同居狐さん。だが、それはまぁ、俺がこいつと長いこと一緒に居るからわかること。
初対面の人にはそこんところ伝わらないのは仕方ないかもしれない。
「んでまぁ、リベンジするチャンスもなくクビになったと」
「のじゃぁ……。あと一日、あと一日やらせて貰えれば、常連さんに顔を覚えて貰えて、きっと愛されフォックス加代ちゃん大勝利間違いなしだったのじゃ」
「そういうとこだぞ」
「……のじゃぁ」
クビになっちまったもんは仕方がない。なに、今のご時世バイタリティさえあれば、仕事なんていくらでもあるんだ。気にすんなと、俺は加代を励ました。
励ますついでに――手羽元の載った皿を彼女へと差し出す。
「しかしリベンジできないのは悔しかろう。どれ、いっちょこいつを試食品と思って、俺にやってみなよ」
「……のじゃぁ、桜!! ほんにお主は優しいのう!!」
よせやい照れるじゃねえかと鼻の下を擦る。
そんな俺から皿を受け取り、加代は――仕事モードの顔をしたのだった。
この
この
「はい、本日ご紹介するのはこちら!! なな、なんと、冷蔵庫で三日間冷凍保存、100グラム48円特価セールで買って来た手羽先!! それを軽く茹でてから、塩と胡椒で味付けしてオーブンで焼いたものになります!! シェフならぬ主夫のこだわり、解凍する手間も省けてらくちんらくちん!! そこに加えて、茹でるのに使った湯は明日の朝の鶏がらスープというアイデア料理になります!! 狐も驚くこの手羽先――今ならオキツネット特別価格!! 100円でご提供!!」
「オキツネット!!」
違う。
それは試食販売じゃない。
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